しかし泣ける。いや、泣けた。主人公の歌が心に響くんだよな。この歳にして勇気をもらうとは…不覚。
マチルダに教えてやろう。
次郎は最近流行りのアニメ映画を見に新宿に来ていた。思いの外、心に響いてしまい、途中から涙を流す自分に気づいた。一旦堰が切れると、あとは何か場面が心に詰まる度、涙が出る。
「年かな…」
次郎は独りごちた。
「なんで誘ってくれないのよ!馬鹿次郎。今度連れてってよね絶対よ」
マチルダに教えると、全く自分勝手なメールが届いた。しかし、2回行ってもいいぐらい感動してしまったのも事実だ。
次郎はニヤリとした。
さてと、この辺でラーメン屋でも探すか。11時半。ちょうどいい。次郎はフラフラと歌舞伎町を歩いていると、いつのまにかゴールデン街まで来ていた。
昼のゴールデン街は、なんだか不気味だ。嵐の前のなんとやら…だな。
ん?こんな奥まったところにラーメン屋があるな。
「麺屋我論」
とあった。
なんだかそそる佇まいだ。
「まさか今からラーメン行くんでしょ!誘ってって言ってるのに!」
再びマチルダからのメール。
察しがいいな。あんな美人でなければ特に意識しないのだが…贅沢な悩みか。まぁいい、とにかく入ってみるか。
次郎は小道に入っていった。
「いらっしゃいませ」
「食券を買ってお好きなところにどうぞ」
中はバーの佇まい。というか夜はバーのようだ。流行りの二毛作というやつか。
次郎は迷ったが醤油ラーメンにした。
ボタンを押そうとしたところで店主に声を掛けられる。
「うちは煮卵を皆さんトッピングされますよ」
「そ、そうか」
次郎は変更して煮卵ラーメンにした。900円か。まぁそんなものだろう。
次郎はコの字型のバーカウンターの奥に座る。出された水が異様に冷えている。さすがバーだ。
「はい、おまたせです」
感心しているとラーメンが着弾した。
ほう、なかなかのクリエイティブ。
スッキリ醤油系だろうか。
ズズ。
ふむ。濃すぎず、ちょうどいいか。背脂も入っていてコクがある。
細麺はいいぞ。
ズルズルッ、ズルズルッ。
ほほう。麺は少し硬めでちょうどいい。なかなかやるな。
そして推しの煮卵か。
ハム。
お、メーカーズマークのウヰスキーで似てるだけあって、ウヰスキーの香りがぷんと漂う。面白い。
チャーシューはホロホロ系。総じて俺好みだ。
もう少しパンチ力があれば100点だな。
ズルズルッ、ズルズルッ。
ズズズー。
ぷはー。ご馳走さんと。
「またな」
「ありがとうございましたー」
次郎は店を出た。
やはりラーメンを食べた後は暑いな。汗が噴き出す。
「いま汗拭いてるでしょ?」
再びマチルダからメール。
次郎は周りを見た。流石にいないか。しかし、行動を、読まれているな。困ったもんだ。
「今度教えるよ」
次郎はラーメンの写真を送った。
「ふーん」
今度はあっさりした回答。さすが気まぐれだな。まぁいい。
次郎は汗を拭きながら再びゴールデン街を抜けて新宿に戻った。
途中にあるアパレル店の壁にマチルダの写るポスターが貼ってあった。
ドキリとする次郎。
あいつ、凄いのかな…
そう思いながら次郎は再び歩き出した。ラーメンなど食っていたら、こんな仕事できないだろうに。まぁいいか。
マチルダは撮影中に大きなクシャミをした。
「大丈夫?ここ寒い?」
カメラマンが聞く。
「あ、いえ、大丈夫です」
大人の笑みでカメラマンに笑いかけるマチルダ。カメラマンは既にデレデレだ。
きっと次郎が悪口言ってるんだわ。
そう心で思いながらマチルダの顔はニヤけていた。
続く。
麺屋我論@新宿
ゴールデン街の外れにある二毛作のラーメン屋。結構いける。名店に育つ感あり。
3.4次郎