さて、と。
次郎は福島県をレンタカーでドライヴしていた。南相馬で荒涼とした景色を眺め、しばし感慨に耽っていたが、福島市内に入ると、腹が鳴った。
そういえば何もたべたなかったな。
次郎はひとりごちた。
そこからラーメンを探しあてもなく車を走らせた。カーステのラジオから懐メロが流れてくる。FMだろうか。広瀬香美のゲレンデが溶けるほど恋したいだった。
スキーに行くでもないが、しかし心地の良いメロディに鼻歌を歌っていると、何やら行列のどきている店を通り過ぎた。
む、なんだったんだあの列は。
次郎は気になって引き返した。
やはり行列ができている。駐車場は店の前と奥にあり、なんと一台空いていた。
とりあえず止めよう。
そう次郎は判断した。
車を停めて行列の始まりを見ると何やら紙が置かれている。
中華そば佐藤。
ラーメン屋じゃねーか。これは僥倖というものだろう。
次郎は名前を書いて車に戻った。
街は6名ほどか。平日1330だというのに。
まぁいい。次郎は車中でリクライニングシートを倒して待った。
暫くして、自分の前にいた客が店内に入ったのを見て、車を降りた。
「函館様」
「ああ、俺だ」
店員に呼ばれ中に入った。中に入るとベンチがあり、再びそこで待つ。程なくカウンターに通された。
メニューを見ると、シンプルだった。次郎はチャーシュー中華そばを頼んだ。
「はいよ」
人の良さそうな店員がオーダーを取る。相変わらず店の外に人だかりが出来ている。
こりゃ期待できる。
次郎はほくそ笑んだ。
暫く待っていると先程の人当たりの良さそうな店員がやって来た。
はい、お待たせしました。
ゴトリと丼が置かれた。
おお!美しいビジュアル。
まずはスープだな。
む。これは白河ラーメン系。
ズズー。ズズー。
うーんうまい、キリっとしているが、コクがある。鶏油も強めに見えたがそうでもない。むしろ食べやすい。
麺は縮れ麺か。
ズルズル、ズルズル!
ほほーう、これはうまい。柔らかめだがスープをしっかり引き連れてくる。こりゃ行列ができるわけだ。
チャーシューも沢山入って贅沢な作り。噛みごたえのあるタイプか。ギシギシ系とみせかけて、硬すぎず、ちょうど良い。満足する。
ゲフッ。
ふー。これは儲けものだったな。
会計頼む。
あちらのレジで。
おお、わかった。
1200円です。
ほらよ。釣りはとっといてくれ。新しい豚肉でと仕入れるといい。
次郎は店員の手にキッチリ1200円を捻じ込んだ。
ガラ🎵
横開きの扉を開けて店を出た。次郎が出る時もまだ行列していた。しかし、福島にもこんなに行列ができる店があるなんてな。
次郎はため息をつくと車に乗り込み、アクセルを踏んだ。
ブロロロロロー🎵
レンタカーのエンジン音を店の前に残し、車影はその尾を引いて消えていった。
***
中華そば屋 佐藤
024-522-1663
福島県福島市小倉寺字敷ヶ森16-1
https://tabelog.com/fukushima/A0701/A070101/7010953/