ガラ♪
「いらっしゃいませ」
次郎は神田に来ていた。
真夏を過ぎたというのに暑い。残暑というより、既に東京は亜熱帯気候だ。
「カンボジアみてぇだな」
次郎は独りごちた。
さて、このラーメン大戦争は、バえる写真で有名な店ということだが…。
「ふん、バえるラーメンは味が追いついていないとこが多いがな。さて」
次郎は店員を呼んだ。
「ご注文は?」
「ピストルで」
ピストルというのが普通のラーメンを指すようだ。
「チャーシューは何枚にしますか?。一枚から五枚まで。無料で選べます」
「五枚に決まっているだろう」
「かしこまりました」
店員は首を傾げて引き下がる。
次郎の席から一つテーブルを開けた席に若いカップルが座っていた。
「きゃー、テル君、すごくないー。バえるー。美味しそう」
「まぁな」
彼氏は彼女の期待通りの反応にご満悦のようだ。
「ふん、イチャイチャと。女に手玉に取られていることがわからない節穴め。バえるのはお前のオツムだろうがっ!」
次郎は聞こえないようにつぶやいた。
「お待たせしました」
ごとり。
ラーメンが着弾した。
「おお!バえる!」
おっといかんいかん、これじゃ隣の節穴マンと同じになっちまうぜ。
次郎はレンゲを取り出した。
ズズ。スープを啜る。
「ほほー、アッサリだな意外に。しかしこの少し魚介の風味は、貝か。まろやかで悪くない。
次郎は麺を啜る。
ズルズルッ、ズルズルッ。
「ほほー、歯切れのいいやや細麺。俺の好みはもっと細麺だが、及第点か。アッサリスープだが麺がひきつれてくると、意外にも主張があって、これもまた悪くない」
「そして、このバえるチャーシューだが」
次郎は丼の縁に干されているチャーシューを掴み、麺と共に口に放り込んだ。
「ほう、これは胡椒が効いて、生ハムのようだな。薄くて少し生のような感覚。低温調理されているのだろうか、悪くない。麺とスープを邪魔しないが存在がないわけではない。これなら合格だよ、悔しいがな」
次郎は麺を啜った。
「ふぅ。ご馳走さま。悪くなかったよ。お会計を」
「ありがとうございます850円です」
「ほらよ。釣りは取っときな。あんちゃんも家賃が大変だろう」
次郎はそう言うとキッチリ850円を店員に握らせた。
店員は首を傾げつつ受け取る。
「あばよ、気が向いたらまた来るぜ」
去り際、次郎はイチャイチャカップルを見た。
「ねぇ、なんかあのおっさんこっち見てる、キモ!」
「だめだよ、見たら。悪いよ」
次郎は聞こえないふりをして店を出た。
「ふん、男の方がいいやつだな。あの女はだめだ。自分にバえるものがない奴の悲しき性(さが)だな」
次郎は真夏の日差しの下に舞い戻った。
「しかし暑い。ラーメン食ってより暑いな。まるで灼熱の戦争だ」
次郎は独りごちた。
続く。
***
3.5次郎
時間を外せば混んでなくていい。アッサリ好きな方にもちょうど良い感じ。
ラーメン大戦争 神田店
03-6206-0587
東京都千代田区鍛冶町1-3-1
https://tabelog.com/tokyo/A1310/A131002/13267232/