次郎は門前仲町に来ていた。今日は広告代理店に勤めている綾小路のオフィスがある茅場町で打ち合わせを行っていた。
その帰り道。
ふらりと門前仲町まで来ていた。
やはり最初にバズを起こすには何か起爆剤となるものが必要だよな。マスか、SNSか。何かを仕掛けなくてはならん。しかし、これは俺の領分というより代理店の領分だ。俺はそこに何かアイデアを出すべきだろう。よく分からんが、その辺を事務局は一緒くたにしている。
そこの誤解を解くところが肝心だな。
さてと、方針も決まったことだし、何か食うか…と言ってもこの辺はよく分からんな。
居酒屋はあるがそれはな…
「ステーキハウス牛和鹿」
ステーキ…なるほど…たまにはいいか。
次郎は重めのガラス度を押した。
「いらっしゃいませ」
「独りだ」
「奥のテーブルどうぞ」
次郎は座るとメニューの説明を受けた。結構値の張るステーキが並んでいた。手頃なのはないかな…
このハンバーグは良さそうだな。
「すまんぬが」
「はい」
元気の良いすらりとした女性店員が応対する。
「この和牛ハンバーグを。それと、煮込みと、春菊爆弾。このサラダは?」
「付いてます」
「じゃそれで、お姉さん頼み過ぎか?」
「いえ、大丈夫だと思います」
「そうか」
その女性店員はエプロンの下にハーフパンツを履いていた。ポニーテールを揺らし、次郎に何かの既視感を感じさせた。
「はい、春菊爆弾です」
「お、いいなこれは、さっぱりしてそうで」
「はい、人気あるんです」
「ところで、お主、やはりダンスをやっていたのか?」
「え、わかります?え、何で、初めて言われました」
「やはりそうか」
「なんか嬉しいです」
次郎も予想が当たって嬉しかった。なぜか大学生の頃を思い出した。
「俺もなぜかわからないがあの頃ダンスをしたかったんだよな」
時間が過ぎるのは早い。躊躇しちいると時間はどんどん過ぎて手遅れになる。
「はい、ハンバーグです」
「おお、なんというビジュアル」
「今のうちに好きなことをしておいた方がいい…あ、いやなんでもない」
「え、あ、はい。なんとなくわかります」
次郎はにこやかに苦笑した。
「愚かな…」
次郎は独りごちた。
しかし、横から見るとすごい厚さだな。こちらの方がまるで爆弾のようだ。
次郎はナイフを入れた。
途端に肉汁が溢れだす。その油が鉄板で焼かれ、ジュワっといい音色を奏でる。
「これは由々しき事態だ」
次郎は独りごちた。
次郎はハンバーグを頬張る。
おお、レアだが外側が焼かれてカリカリして甘い。ステーキソースもいいが。醤油が合いそうだ。
次郎は山葵醤油をつけて二口目を頬張る。
ほほー、やはりな、これは肉の甘さと醤油のさっぱりした塩気の相性がピッタリだ!
「うまい、うまいよこれ」
「ありがとうございます!」
元気な店員だ。自然と綻ぶ次郎。
ハムハム。
ハムハム。
いやー、うまかった。
「会計頼む」
「3850円です」
「ではこれで。釣りはいらん。ダンススクールの足しにするといい」
次郎はそういうと、キッチリ3850円をテーブルの上に置いた。
「ありがとうございました」
女性店員は首を傾げていたが、次郎は構うことなく颯爽と店を出た。
いや、掘り出しもんだったな。ハンバーグはやはりうまいな。
海沿いの湿った風が次郎に纏わりつく。晩夏だというのにまだまだ東京は暑さが続いていた。
続く。
ステーキハウス牛和鹿@門前仲町
うまい和牛の食べれるステーキハウス。ハンバーグが手頃でいい。出張飯にもいい。
3.5次郎
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ステーキハウス牛和鹿
03-3630-1889
東京都江東区門前仲町2-2-7 1F
https://tabelog.com/tokyo/A1313/A131303/13135920/