ふぅ。
暑いな。蒸し暑いぜ。
こんな日はやはりラーメンを食べるしかないだろう。
次郎は部屋のベッドで目を開けて天井を見た。
無機質な白い壁があった。
シミもなく新しいため、そこに目を凝らしてもラーメンを想像することは叶わない。
次郎は東京に越して早3ヶ月。
あっという間だった。
生活圏が変わるのもそうだが、青森のフィールドワーク中心の生活から、研究中心の仕事に慣れるのにも疲れていた。
こんな時はうまいラーメンを食うのが一番だ。
しかしな…最近オヤジの店はコロナのせいもあって混んでいる。みなラーメン屋に殺到している。
ここは、初だが、オヤジの弟子花木のやる覆面花木に行ってみるか。東中野に馴染みはないがな。
次郎はサッと着替えて東西線に乗った。
中野まで行くとそこで総武線に乗り換え東中野に降りた。この駅は東西に長く、逆側に出ると一駅歩くような遠回りをする。
始めのトラップは乗り越えたようだ。
次郎は額から汗を流していた。
それにしても暑いな。ラーメン食ったらバスタオルが必要だな。
山手通りを南下すると、大きな工事現場があった。新たにタワマンが立つようだ。
性懲りも無く。今更タワマンなんて…買った瞬間に値崩れするのにな。まぁいい。
そこからさらに進むと黄色い暖簾が見えた。
花木と書いてある。
ここだな。
やってるな。
こんちは。
いらっしゃい。あ、どうも。
どうやら次郎を覚えていたようだ。
どうも。
どうぞ。
この花木はワンタンを売りにしている。頼まないわけにはいかんな。
基本の醤油にしよう。それとワンタンだな。
はいよ。
トッピングどうします?
いいの?
はい、共通なんで。
じゃあ、青唐辛子と味玉とメンマで。
はいよ。
ふん、見たか隣の下賤の者よ。上級者のトッピング3つの奥義。その辺のやつは大体トッピング1つまで。たまに2つの強者もいるが、3つ頼める王者はなかなかいない。
しかし、先客はこの下賤の一名、他人の注文など聞いていない。
まぁいい。
チャッチャッチャッ♪
いい湯切り音だ。
トッピングを乗せる時の丁寧な動き。期待が高まる。
はい、お待たせしました。
ほほーう、これは美しいビジュアル。チャーシューもメンマも味玉も、そしてワンタンも艶やかだ。
どら。
次郎はスープを啜った。
うん、うまい。覆面を継承しているが、スッキリしている。しかし、味は醤油の味がしっかりしていてキリリとしている。
ワンタンは。
でかい。これが売りだもんな。共通は確かニラだったか。
ほほー、うまいな。日曜日に覆面を借りて営業していたが、少し変わったか。
そして麺だ。
この細麺だよ、明智くん。
ズルズルッ、ズルズルッ♪
むほ、うまい。つるつると喉越しよく、スープに絡む。これだよこれ。
チャーシューも覆面と同じ柔らかホロホロ系。うますぎる。
これで、リピートレパートリーが増えたぜ。
ズズズズー。
次郎はスープを啜った。
ふぅ。ご馳走様。
うまかったよ。また来るぜ。
是非、お待ちしてます。
次郎は店を出た。相変わらずトンカントンカンとタワマンの工事音楽が街に響く。
騒がしいな。まぁこれも東京らしいか。
次郎はそう言ってからニヤリとした。
俺もまた新たな工事が、いや挑戦が始まる、か。
狭い空から覗く照りつける太陽を見ながら次郎は独りごちた。
続く。
覆面花木 東中野
覆面智の弟子が独り立ち。頑固系正統派の味。ワンタンが売り。うまい。
3.7次郎