函館次郎の独りごち飯。

東京近郊のうまくて並んでない店を探す男のドラマ

覆面智⑦ 浅利塩ラーメン

お、おやじっ!

 

まじかよ。バースデーなのか!

次郎はツイッターを何気なくタップした。今日はおやじのバースデーラーメンらしい。

 

バースデーの火曜は塩ラーメンの日。どんな具材が出し汁になるのか。答えは同じツイッターにあった。

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くっ、うまそうな浅利じゃねーか!なんだかツイッターに食材を載せられると行きたい度数が勝手に上がっちまうな。こんなマーケ手法をおやじが使えるとは世も末だ。

 

まぁ仕方ない、行くしかねーか。

待ってろおやじっ!

 

次郎は身支度を整え、小雨の降る街にチャリンコを走らせた。

 

やはりまだ寒いな雨の日は。しかし、雨は嫌いじゃないぜ♪

次郎は独りごちた。

 

次郎は雨☔️が好きだった。街は静かになり、アスファルトは輝きを増す。他人が憂鬱そうに見える中、次郎は一人ワクワクする。このギャップが好きだった。

 

雨のデートが好きな美人はいないのか?

見上げた灰色の雲に返事はなかった。その側から次郎の顔に雨の霞みがかかっていく。幻想的な景色が次郎の周りにあった。

 

 

地下鉄の駅に入ると雨の日独特のむわっとした湿気が次郎にまとわりついた。

 

くっ、うっとおしい。

地下鉄は暑すぎるんだ。誰がこんな温度を求めてるんだ??あぁ??

駅員を睨みつけても答えは返ってこない。

 

ふん、次郎は神保町まで半蔵門線に揺られた。

車両内は皆スマホか居眠り。誰とアクセスしてるんだか。おおかたSNSだろう。リアルライフにこそ真実があるんだよ。人間はまだ身体を持っている。生き急いでどーする?どうせおまえらが死ぬ頃には、まだ不老不死は完成していないだろう。

 

次郎は目を閉じた。

 

がたん。

電車が止まった。ちょうど神保町だった。

 

ふん、ふだんからリアルに生きてれば自然と体が駅を見分けるってな。サイバー野郎にはわからんだろう…

昔の人々は本当に魔法が使えたのかもな。

 

ふと、そんな考えが次郎の頭をよぎった。まぁ

、あんなうまいラーメンを作るオヤジをウィザードといったかもしれないがな!

かっかっかっ!

勢いよく地下鉄の階段をのぼる次郎。店の前に来ると昼時のため列ができていた。

 

ふん、列か。回転は速いだろう。次郎は行儀よく列に並んだ。程なく人は回転し次郎はカウンターに座した。

 

おう、にいちゃん。久しぶり!

 

あ、お、おう。

次郎はおやじの先制パンチに機先を制された。

 

トッピングどーする?

 

じゃあ…ノリと青唐辛子ダブルで。

 

はいよ。

 

小気味いいやりとり。流石だ。

次郎は満足げに目を閉じた。

 

 

はいよ♪

突如沈黙は破られた。

 

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ぐお、うまそうなスープだ。浅利もひとつ入ってるにくい演出だ。やるなおやじ!

 

次郎のテンションは上がった。

 

青唐辛子ダブルは塩ラーメンに良くあった。くー、スッキリしてるが味は濃厚だ。浅利のパンチも効いている。こりゃうまい。うまいぞー!

 

ありがとさん♪

おやじの満足げな声が店内に響く。

 

ズズズズズズッ

 

ズルズルッ

 

ズズズズズズッ

 

ズルズルッ

 

ゴクリッ

 

 

かーっ!うめー!

スープをほとんど飲み干した。

 

あー、またやっちまった。スープ飲んじゃいけなかったのにな。

 

えぃ、今日は久しぶりだからな。よしとしよう。いやー、それにしても、うまかったよおやじ!流石だ。

 

どうも。また待ってるよ♪

 

ガラガラ♪

次郎は振り返らず手を挙げて答えた。

 

まだ雨は降っている。

近くのコンビニで黒烏龍茶を買った。罪悪感は幾分和らいだ。

 

しかしな…だれがここで一緒にうまいといってくれるのか…

甘ったるい考えが頭に浮かんだ。

 

ふん、これも雨のせいか…

次郎は独りごちた。

 

次郎が地下鉄に降りる頃、雨が上がり、陽は所々差し込んできた。もうすぐ春が滑り込んでくる。誰も前にも平等に。

 

空からは薄紅色の光が射しこんできていているように見えた。

 

 

続く。

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今月の覆面智火曜塩ラーメンは浅利の出し汁。スッキリ濃厚でうまい。

3.7次郎