今日は、早く終わったな。
時計は17時30分。夜はこれからだった。
何かうまいもんが食べたいな。
いつもはここで、ハンバーグ、スープカレー、とんかつの三択になっちまうんだよな。
そうやっていてはいつまで経っても成長しねぇ。成長戦略とやらを立ててみるか。
んー、浮かばんな。
そもそも何が成長なんだ。あぁ?
次郎は、六本木の夜空を見上げ独りごちた。
んー、浮かばんな。三種の神器を食べないという決意が大事かもしれんな。何かべつのもの。
冬。
冬、、、ネギ!
んー、こないな。ちゃんこ!…ひとり鍋はなぁ。一度ググってみるか。
冬、食材。
…
長いな。
グーグルも俺と同じ気持ちか…おのれの成長を考えているらしい。
出た!
おぉ!
これは。よし、早速このワードを使って…ほうほう、出てきたな。開店して間もないな。よし、早い時間だし大丈夫だろう。
次郎は芋洗坂を駆け上がった。
ふう。どこだ?
おぉ、これか、次郎は六本木通り沿いの雑居ビルの地下に駆け下りた。
ガラガラ♪
いらっしゃいませ。
和服の若い女性が応じた。
ほう。こじんまりしてるな。
一人だ。予約はない。
…ハイ。かしこまりました。
次郎はカウンターに通された。
座るやいなや、
ごめんなさい!
ご飯がまだ炊き上がらないのですこしお時間いただきます。
先制攻撃。
ユリオカ封じか。まぁいい。今夜は時間がある。
じゃ、ハイボール。それと…
よし、この牡蠣フライのコースで。
はいよ♪
まずはお通しを。
タコとイカの塩辛だった。
予想に反して、しっかりと味がついていた。うまい。これは先が期待できる。
次郎はあっという間に食べた。
横を見ると前園のサインがおいてあった。
「おいしい!」
と書いてあった。
あの天才ドリブラー前園が、ただ一言、おいしい!と書くくらいだ。きっとオイシイのだろう。前園、安らかに。次郎は目を閉じた。
では、二品目は筑前煮です。
カウンターから愛想のいい大将が提供した。
お待たせするので大盛り二倍!
おぉ!これはでかい。嬉しいな。
ご飯が炊き上がらないというだけで前菜がどんどん出てくる。いいぞ。ハードルを上げておいて喜ばせるアップダウン作戦だな。
ふん。うまいじゃねーか。牡蠣の出汁もきいてるな。どんどんいけてしまう。ここは当たりだ。
はい、では、牡蠣フライです!
おお、サクサクそうだ!
結構ボリュームもある。
次郎は箸を入れた。
サクッ!
いい音がした。
うまそうだ。
次郎は牡蠣フライを口に放り込んだ。咀嚼するや否や牡蠣の出汁が溢れだし、塩味の効いたサクサクの衣と素晴らしいハーモニーが奏でられた。
こりゃたまらん。塩とポン酢が付け合わせであるが、なぜか既に塩味が効いている。これはうまいぞ!!
こーなると飯が…
ハイ、お待たせ!サービスで白飯じゃなくて牡蠣の炊き込みごはん♪
おぉ、大将!気が利いてるな!
うまい!炊き込みごはんたまらん。
そして、付け合せのすまし汁にも牡蠣が入っていた。
いやー、ここまでくると完敗だ。完璧な戦略だ。ひとりで味わうにはもったいないな!
次来るときは……
次郎の箸が止まった。
いかんいかん、そんなことは。いやいや、それはない。それはいかん…
次郎は脳内でひとり逡巡した。
思い直して残りの牡蠣フライと炊き込みごはん、すまし汁を平らげた。
いやー、腹一杯だ。最高だったな。この感じをずっと続けてほしいな。人気が出すぎないことを祈るぜ。今日食べれなかった鍋も気になるし。
次はあの鍋を…い、いかんいかん、、
大将会計だ!
はい、3200円です。
なに!!!!!
そんなに安いのか!
これはまずいな。また来るに決まってるだろ〜が!
次郎は和服美人からコートを受け取ると、羽織らないまま階段を駆け上がった。
時刻は20時。六本木通りに出ると、街はまさにこれからが本番だった。
次郎は意気揚々と六本木交差点に向かって歩き出した。
背後から煌びやかなリムジンが次郎の横を通り過ぎた。
何が成長か。
再び考える次郎だった。
続く。
かき心@六本木
コスパ半端ない。そして、うまい。大将も明るい。カジュアルな会合向きか。牡蠣好きを連れて行きたいお店。
3.8次郎