来ちまった…
ふん。懐かしいな。
次郎は久しぶりに彼の地に降りた。
5年ほど前に住んでいた場所だ。次郎はそこでさまざまな経験をし、一人で生きることを学んだ。
そんな思い出がたくさん詰まった土地シドニーに久しぶりに降り立った。
変わってないような気がするな。まぁたかが四年か。
鉄道は電子カード決済を導入したものの、駅員の態度は相変わらず悪い。期待するほうがどうかしてるか。日本が良すぎるだけだな、不必要に。
さて、まずはフラットホワイトだな。
次郎は日本にはあまり見かけないコーヒーをオーダーした。
んー、懐かしい味だ。といいながらもカフェラテとの違いが大してわからんがな。
さてと、シティはもういい、とりあえずマンリーだ。
次郎はシドニーのホテルで荷物を置くとフェリーでマンリーに向かった。
フェリーからの眺めが最高なんだよな。
次郎は夫婦で来ているインド人を押しのけて、座席を確保した。
ふん、どきやがれインド野郎。アジアを馬鹿にすると痛い目にあうぜ。
フェリーが発進すると、シドニー湾の風光明媚な景色が広がった。
ぐおぉ、突然フェリーは揺れ、振動で波飛沫がもろにかかった。
くっインドを押しのけていなければ今頃あいつらがお釈迦になるはずだったのに。
結局仏陀はインドを選んだわけだな。次は天竺でリベンジだ。
ぶつぶつと独り言を言っていると、ふたたび波飛沫が襲ってきたが今度は写真を取るために立ち上がっていたインド野郎に命中した。
ふー、これでおあいこだ。三蔵法師は何人だって話だな。まぁいい、座れインド人。
次郎はインド人夫婦を一瞥すると、ふたたび遠くのマンリーに目を向けた。
ふう、この景色。変わってないな。思い出しちまうぜ。
今頃あいつは…
過ぎた話か。ふん、もう5年も昔のことだ。今の俺は違う。違うが、しかし、やはりあそこに行かないとはじまらねぇ。
次郎はワーフに着くと、ダラダラ歩きやがるオージーを押しのけて、海岸に出た。そして、右に曲がると目当ての店があった。
マンリーグリル。次郎が通った店だった。
よし、ねーちゃん、俺をその辺の痩せっぽちアジア人だと思うなよ!俺の胃袋は宇宙なんだ。
まずはシャルドネをもってこい!
次郎は息巻いた。
しかし、通じない。
く、なんてことだ。おれの発音も錆び付いたか。次郎はゆっくりといい直した。
ふー。頼むぜねーちゃん。
さてと。
次郎はフードメニューを見た。見なくても頼むつもりだったが、まよわずナチュラルオイスターを頼んだ。
ぬかるなよねーちゃん。
次郎はしばらく夕景の海に見とれていた。
Here you are.
く、うまそーじゃねーか!この野郎!
さすがマンリーグリルだ。グリルなのにオイスターが絶品なんだ。
次郎はレモンと真ん中のビネガー を勢いよくかけた。
くー、うまそーだー。
さてと。
ジュル!
くーーー!so fresh!
そしてシャルドネとコラボだ。
くーーー!たまらねー。波の音とあいまってまるで海に入っているかのようだ。
んなわけねーか。ははっ。
次郎は独りごちた。
さてと、次はフィッシュアンドチップスだ。ここのフィッシュアンドチップスは絶品なんだ。
これもぬかるなよ!
あの頃は、ここでコーヒーを飲んだっけな…
ふん、何を言ってるだ俺は。
Fish and Chips!
おぉ!これも変わってないな。
次郎はレモンを勢いよくかけた。
塩胡椒も振りかけた。
これで整ったな。
ザクッ
フィッシュにナイフを入れた。
くーーー!いい音だ。
ほうばった魚からジューシーな魚出汁が溢れレモンとコラボする。
これだ、これだよ、ねーちゃん。次郎はひとり叫んでいた。しかし、日本語でいくらしゃべっても周りは誰も聞いていない。
ふ、さすがアウェーだ。しかしこの方が生きやすいぜ。日本は監視世界だからな。
またたくまに次郎は平らげた。
さてと、どーするか…このまま終わるかそれとも、ラムラックでもいくか。
しかしちょっと重いか…
うーん、このままじゃ終われねーよな。
よし、ここは。
おい、ねーちゃん!
ワギューバーガー頼むぜ!
!!?
Are you sure?
its very big, and with chips...
黙れ小僧!俺が食べると言ったら食べるんだ。お前のような単細胞な思考で考えるんじゃねぇ。あぁ?大東亜共和圏にぶちこむぞ!
ふー、言ってやった。
ねーちゃんはニヒルな笑いを投げかけながら奥に引っ込んだ。
今頃あのジャパニーズは頭がおかしいとかなんとか言ってるんだろう。
ふん、言わせとけ。
ふたたびワインを飲みながら波の音を聴いた。
Here you go⤴️
半信半疑ながらハンバーガーをもってきた。
くっ、さすがにchips は余計だな。
次郎はハンバーガーにかぶりついた。一番上に無造作にピクルスが一本そのまま乗っけられていた。
なんて怠惰な。関取みたいだな。まぁいい。これがオージースタイルだろう。平らげてやるよ!
ガブッ。
おお、これでよこのジャンキー感半端ねぇ。サーフィンの帰りによく食べたな。そしてその後一緒コーヒー屋に行ったっけか…
いかんいかん、何を思い出してるんだ俺は。
うぷっ
さすがにきついな。しかし、負けるわけには行かねぇ。
次郎は気合で平らげた。
ふー。もう腹一杯だ。chipsよサヨウナラ。さすがに俺も死んじまうぜ。
よし、会計だ!
早くもってこいよ!忘れてたらしょーちしねーぞ!という気持ちを込めてウェイトレスを呼んだ。
Thank you . And. How about foooood??
ちっ、最後までハンバーガーを馬鹿にしやがって。ふん、おまえらの経済は俺が支えてるんだ。綺麗な海で泳げるのも次郎さんのおかげだってんだ、覚えとけ。
84.9ドル…
仕方ねぇな。もってきな。
釣りはいらねーよ!
次郎は釣りの0.1ドルだけを置いて席を立った。
席を立ち、ふたたび海岸に出ると、生暖かい風が次郎の全身をなでた。
少し歩くと次郎の思い出の場所が見えた。
ふん、懐かしい所だらけだな。そして、この月は昔のままだ。ふー。
ため息をついた次郎は海岸を後にした。
砕けた波の音にまじって、遠く昔の次郎の声が聞こえた気がした。
帰りのフェリーから見たシドニーシティーの夜景がやけに遠く感じられた。
続く。
マンリーグリル@マンリー
Manly Grill@Manly beach, Sydney
グリルなのにオイスターが一番うまい。海を見ながらワインとオイスター、そしてグリル。ここを天国と呼ばずしてどこを呼ぶ…?
4.0シド次郎