腹減ったなぁ…
次郎は腹が減っていた。しかしこのところの食べすぎを考慮し、痩せようと考えた昨晩、いきつけの牛タンねぎしで麦飯を丸々残すという暴挙に出た。そして、今朝、その勢いをそのままに、何も食べず、外に出た。
グゥ〜♪
しかし時は午後二時、細々した用事を片付け一息着くと、腹が鳴った。
ちっ、何たる体たらく。しかし体は正直よのぉ…
いかんいかん、今日はおやじの店に行くのも諦めてラーメンは絶対に食べないと誓ったばかりじゃないか。
ふん、それにしても、何か流石に腹に入れておくか。うまいサラダの店でもないのか。まぁそんな店ないよな。
次郎は新宿南口から三丁目方面に歩くと天ぷらつな八を通り過ぎ、三丁目方面に折れた小道に入った。このまま行くと札幌ドミニカというスープカレー屋がある。
そうなのだ。ここで、ご飯を食べなければ良いのだ。名案が浮かんだ次郎。
小道を少し行くと、店の外に四、五人並んでいるのが見えた。
い、いかん、嫌な予感だ。おそらくドミニカではない。し、しかし、この行列…まずいぞ…
次郎は素通りしようとした。
しかし、勝手に脚は列を飛び越え店の案内の貼り紙に吸い寄せられた。
む、やはりラーメン屋か。外に列。良い店の気配。しかしまだ五人。そんなにかからなそうだ。醤油味、のどぐろ醤油味、細麺、美しいビジュアル。
や、やばい、い、いかん、い、いや、だめだ、だめだ次郎〜
奮闘虚しく、次郎は最後尾に並んだ。
お客様何名様?
一人だ。見ての通りだ。
しばらくお待ちください。
言われなくてもわかっているさ。
しばらくすると、どやどやと中から客が出てきた。回転は良さそうだ。
お一人様どうぞ。
五分もたたずに入店できた。
いらっしゃーい♪
威勢の良い掛け声が聞こえてくる。
普通の醤油味、のどぐろ味とニ種類あった。
一番人気は普通の醤油味か。
一番人気はいらない、一着が欲しい。
何年か前のダービージョッキーのセリフだ。
しかし、俺は一番人気が欲しい。
次郎は独りごち、普通の醤油味全部載せのボタンを押した。
ちょうど千円だった。
次郎は店員に促され奥のカウンターへ座った。
店員に食券を渡すと無造作に積まれたコップを取り、自動給茶機から出る水をがぶ飲みした。
ふー。
落ち着いたか。
さてと、左隣は混ぜそば。右隣はのどぐろか。
まぁいい。
お待たせしました。
紙エプロンは使いますか?
使うわけがないだろう。たわけ。
だが、
外の写真よりも美しいクリエイティブだ。しかし、最近このタイプのラーメンが流行っているな。懐石のような佇まい。さてと、俺をがっかりさせるなよ。
蓮華にスープを取ると意外と透き通った色合い。
ズズッ。
ほう、うまい。味が濃い。
鴨と大山鳥の出汁でここまでのコクを出せるのか。少し丸みを帯びた醤油スープだが、味はそのまま柔らかいままではなくしっかりと濃い。これはなかなか出会えないぞ。うまい。
麺は細麺だな。合格だ。
ズルズルッ。
うまいな。スープを吸い寄せる。やはりスープがうまいんだな。
そして、マキシマムという濃いたまご。どれどれ。
次郎はたまごを割った。
ふぉ、こりゃ綺麗だ。おやじの味玉にも匹敵するビジュアル。
次郎は黄身をこぼさないように口内に放り込んだ。
はう!
うまい、確かに黄身の味が濃厚だ!
君死にたまうことなかれ。
だな。違うか。
次郎は独りごちた。
ズルズルッ
ズズズズー。
スープがうまい。
そして、このチャーシュー、豚のロースと鳥胸肉か。チャーシュー、麺、スープと一緒くたに食べる贅沢だな。
ズルズルッ、ズルズルッ
ズズズズー♪
うまい。柔らかくて上品なチャーシュー。チャーシューはおやじの店には及ばないが、この上品なラーメンにはピッタリだ。バランスが良い。しかしお利口ちゃんなだけではない。やはり、スープが違うからか。
ズズズズー、ズズズズー。
ごとり。
ご馳走さん。
ふー、うまかったぜ。
またな。
次郎は荷物を持って、外に出た。
ポカポカしてらぁ。
…
やっちまったな。
まぁ仕方ねぇ、こりゃ出会いがしらの事故だな。
いや、素晴らしい出会いか。
戸外の風はひんやりと冷たいが、日が射した街は春の予兆をうっすらと次郎に感じさせた。
続く。
らぁ麺はやし田@新宿三丁目
東京醤油味のラーメン屋。この手のラーメンは単にまろやかなものが多いが、ここは味もしっかりと立っている。たまごも黄身が濃い味でうまい。近くにあれば通いたいラーメン屋。のどぐろスープも気になる。
3.65次郎