麺・酒処 ぶらり ラーメン 日暮里
「肩が痛いな…」
次郎は上野にある西洋美術館に入ったあと、肩の痛みを感じながら公園を歩いていた。
陽光が気持ちよく、公園の噴水が涼しげな空気を醸し出している。横にあるアメリカのチェーン店のコーヒー屋は今日も繁盛していた。
「ふん、こんなとこにとアメ公が進出して、それに群がる敗戦国民か…いまいましい」
次郎は肩を抑えながら噴水を通り過ぎる。しかし、思い直して、来た道を引き返し上野駅でJRに乗った。
日暮里で降りると怪しげな北口へ向かう。そこに怪しげなマッサージ店があり、そこに消えていく。
そこは中国人らしき女性たちがやっているマッサージ屋で、値段が安かった。いかがわしい店ではなくただのマッサージ店だ。
次郎はそこを何度か利用していた。皆力強く揉んでくれるため、そこが身体に合っていた。
今日も60分のコースを注文し、肩を強く押され目を瞑る。グイグイと来る指が痛気持ちいい。
気がつくと寝込んでいた。
「はい、終わりよー」
マッサージ師の女性に言われてゆっくりと起き上がる。寝込んだため少しダルいが身体は軽くなっている。
店を出ると伸びをした。
さてと、どこに行こうか…時間は2時。ちらほら高校生たちが通り過ぎていく。
遅めの昼飯でも食べるか…そう思ってキョロキョロしていると、そこらじゅうに中国系の町中華がある。しかし、気分は町中華ではなかった。しばらくふらふらしていると、小道の奥にラーメン屋が見えた。いや、居酒屋だろうか?恐る恐る扉を開けるとそこはラーメン屋だった。
『麺・酒処 ぶらり』
「ぶらりと入るにはちょうど良いな」
次郎は独りごちた。
食券機で鶏白湯が有名と書いてあったが、次郎はあまり鶏白湯が好きではなく、鶏そばを注文した。
揉みほぐされた身体には塩味がちょうど良さそうな気がした。
厨房を除くと、麺打ちはアジア系の人物だった。
チャッチャッチャッ♪と小気味良い湯切り音がリズミカルに聞こえて来たと思ったら丼が着弾した。
「お待たせしましたー」
湯気が丼から立ち昇る。
「ほう、これは麺妖な…」
美しいビジュアル。左側に緑の茎系野菜と、真ん中ち小麦色の麺、そして右側の辣味の鶏肉がまるでイタリア国旗のようだ。
レンゲで透明なスープを啜る次郎。
「Bravo!」
キリリとした塩味と鶏出汁が見事に決まっている。塩味があとを引く。
麺は細ストレート。主張しすぎない味がスープとの相性の良さを物語る。
ポイントはこの辛い鶏肉。ある程度歯応えが残っているが、食べやすい。辛みが単純な塩味にアクセントを加えて深みがます。気がつくとスープの風味もうまく全体を包み舌を楽しませてくる。
「これは当たりだった。まるでマッサージ屋を見つけた時の気分だぜ」
次郎はほくそ笑んだ。
ズルズルと音を立てて麺を啜り、スープを飲んだ。
「ご馳走さん」
次郎は一言添えて席を立つ。
店を出ると3時前。さらに高校生ほ増えている。ちょうど下校の時刻だ。
「俺は何をしているんだろうな…」
ふと高校生の時分を思い出したが、大した思い出も蘇らなかった。
「ラーメンを食べて、マッサージ、これでひとっ風呂浴びれば幸せの極地だよな。結局人生に意味はないんだよ。開成高校の君たちにもそれが判ればいいのだが…」
次郎は行き交う生徒を見送った。金髪の子供達に紛れて、ガリ勉メガネの高校生が通り過ぎる。
次郎はそいつに「頑張れよ!」と声を掛ける。
「お前もな」
低く小さな、だが確かな声でそう言い返された。
「く、世の中はまだまだ捨てたもんじゃねーか」
次郎はニヤついて、また歩き出した。その先には銭湯の煙突が確かに見えていた。
続く。
***
麺酒処 ぶらり
03-3805-9766
東京都荒川区東日暮里5-52-5
https://tabelog.com/tokyo/A1311/A131105/13041644/