「いやー、次郎さん、この前久々に會水庵行ったんですよー。でね、定番の鰯とシラスの親子丼にしようと思ったんですけどね。
鰯が一杯食べたくなっちゃって。それで鰯丼にしたんですよー。そしたらね、なんと鰯が4匹分も入っててね、肉厚で柔らかくて、ハフハフして、脂も乗っててね。むしろ鰯丼の方が満足感が高いんじゃないかって、そう思ったんですよねー♪」
つ、痛つつ。う、うーん。そ、そうかい。
ぎゅるるるー♪
次郎はゴッドハンドの施術を受けていた。毎度バルハラに連れて行ってくれるこのマッサージ。東京に来る度に通っていた。
そして、今日はそのゴッドハンドが、會水庵という、穴子丼と鰯とシラスの親子丼で有名な店の話を、施術をしながらしていたのだった。
だ、だめだ、ゴッドハンドの説明がうまそう過ぎる。マッサージよりも會水庵の方が気になっちまう。
う、うう。
う、うううー。
スヤスヤZzz…
はい、お疲れ様です〜。
う、う〜ん。ありがとな。じゃまた。
また来てくださいね〜♪
次郎は挨拶もそこそこにゴッドハンドの店を出た。會水庵はゴッドハンドの施術所からほど近いところにある。
時は11時20分。開店の10分前。ちょうどいい頃合いだ。
次郎は會水庵に急いだ。
到着すると案の定、既に5人待ち。しかしこの人数なら1回転目で十分入れる。
危なかった。
ぎゅるるるー♪
腹も限界が近いな。
程なく、女将が店から出てきて暖簾を掛ける。それと同時に客が中になだれ込む。次郎もその流れに逆らわず、店に入ってすぐのカウンターの最後の席を占めた。
ふぅ。
隣の中年のおばはん2人が子供の話をしながらメニューを見て頼んでいる。
次郎はおばはんがメニューを置き注文する途中、半ば強引にメニューをひったくった。
おい、俺は鰯丼を頼む。
はいよ。
その間に熱いお茶が女将から渡される。
ううむ…女将、水ももらえるか。
はいよ。
女将から水が渡される。
やはり水だ。
まだまだ都内は暑い。本格的に涼しくなるのは10月に入ってからだ。
カウンター内では親父が一生懸命鰯と穴子を焼いている。
待つこと10分。件の料理が着弾した。
はい、お待たせしました。
おお、美しいビジュアル!!
小料理屋然としている。
そして?
ほほう、鰯が高級魚のような装いだな。
皮がキラキラしている。柔らかいのだが、身がしっかり入っている感じが箸の先から伝わってくる。
ふほほほー♪
これはうまそうなホクホク感だ。
次郎は鰯と白飯を同時に口に放り込んだ。
はふはふ。はふはふっ。
う、うまい!!脂が乗っていて、柔らかいものの、身がほぐれることもなく、まとまりがある。口の中で柔らかくほどけていく身が、特製のタレと交わり、まるで穴子や鰻のような食感だ。それがこの白飯に抜群に合う。
これは当たりだ!!
次郎は独りごちた。
そして、このボリューム。鰯の身が4本も入って…たまらんな。
パクパク。むしゃむしゃ。はふはふっ。
パクパク。ハムハム。はふはふっ。
ハムハム。むしゃむしゃ。はふはふっ。
ふぅ。うまかった。ご馳走さんっと。
あっという間のクルーズだったな…
おい女将、会計だ。
はい。1200円です。
ほらよ。釣りはいらねぇよ。それで新しい炭でも買いな。
次郎はキッチリ1200円をカウンターに叩きつけた。
ラガラガ♪
おっと、並んでるな。早めに来て正解だったな。
店の外には、これから鰯にありつきたい奴らが列を成している。
次郎はその列をかき分け、地下鉄の赤坂駅に向かって歩いていった。
汗が噴き出す陽気は、いまだ去りそうにはなかった。
続く。
會水庵@赤坂
穴子がメインの店だが、鰯が最高にうまい。シラスと鰯の親子丼もうまいが、鰯がたくさん食べたければこの鰯丼を。
3.6次郎