あんまりじゃねーか!
次郎はつい大声をあげた。
次郎の勤める会社の経営が悪化し、社食が廃止になることが決定したからだ。
く、こんな庶民から金を巻き上げてどうしろってんだっ。
次郎はうなだれた。
そして、時刻は12時になろうとしていた。
ええぃ、ままよ。もうこんなしみったれた社食なんか食ってられるかっ!
哀しそうに残りわずかな営業を惜しんで社員食堂に向かう同僚たちに一瞥をくれ、次郎は社屋から飛び出した。
こんな日は豪勢な食事にありつきたいもんだぜ。次郎は、渋谷の街を物色しながら歩いているうちに、円山町のあたりにまで入りこんでいた。
ん、なんだなんだ、こんな人気のない路地に満席の店があるな。よし、決めた、今日はここで討ち死にだっ!
カランコロン♪
店のドアは既に開いていたので、次郎は自分でそう言いながら店内に入った。
イラッシャイマセ。少したどたどしい日本語の店員が迎えられ、カウンターに腰を下ろした。
ふむふむ、ここはハンバーグで有名な店なんだな。よし、お手並み拝見といくか。
おい、レゲェボーイ、ハンバーグ定食、それにハーフのチキンカツもやってくれっ!
ゆりおか超特急でなっ!
くくっ、レゲェボーイにはこのダジャレはわかるまいよ、次郎はひとりほくそ笑んだ。
程なくサラダが出され、
待つこと10分、
前のカウンターからハンバーグの、皿がでてきた。
おぉ!これは、うまそうだな!目玉焼きのトッピングは功を奏したぞ!でかしたボブマーリー!
デミグラスソースの海に埋もれたハンバーグは肉厚でしっかりとして、切ると肉汁があふれてくる。それに卵の黄身がこぼれ落ち絶妙のハーモニーを奏でていた。
くー、震えがとまらねぇ。これは武者震いってやつだな。
このレゲェボーイに九郎判官義経の強さを思い知らせてやる!次郎はハンバーグを口に放り込んだ。
ぐぉーーーーー、なんじゃこりゃーーーーー!
うめぇ、う、、うめぇよーーー。
次郎は泣き崩れた。
くそ、レゲェ野郎、大陸の力は半端ねーよ。
次郎はあっという間に平らげた。
さらには、チキンカツもあるってのが俺の心を潤すぜ!
む、こっちは、トマトソースかイタリアンな感じだな。もはや、レゲェなのかカンツォーネなのかわかんねーな。
叫びながら次郎はチキンカツを頬張った。
ぐ、デミグラスとまた違う味が口を新鮮にするな、そしてトマトがチキンを引き立てるな。この衣もサクサクしてやがるっ!
くー、もう俺は会社に戻れねえ。こんなハーモニーを奏でられちまったら。
そうだ、おれには、街のランチがある。社食なんかクソ食らえだっ!
次郎は勢い良く店を後にした。
カランコロン♪
次郎の口笛が昼時の円山町に響いた。
オキャクサーン、オカイケイーーーー!
次郎を呼び止めるレゲェ調の声が口笛の後を追った。
続く。
キッチンハセガワ@渋谷神泉
しっかりとしたハンバーグがハンパない。ランチでは他のメイン料理もハーフにして追加できる優れもの。ここ最近のハンバーグでは一番うまい部類。
3.9次郎