ふーむ。親父のラーメン、今日もうまかったが、ハゼの出汁だからか、少しだけ胃袋に余裕がある気がするな。
次郎は神保町の街を歩いていた。
となると、もう一軒ぐらいいけちまうなぁ。
困ったぜ…俺の食欲にも。
ふう。
蘭州牛肉麺もイイか、いや、共栄堂のカレーもいいな。お、キッチン南海なんてのもいいな。よし、行ってみるか。
キッチン南海の前まで行くと、開店15分前の11時だというのに、既に20人程度の列。こりゃ二郎並みだな。ダメだこりゃ!
次郎はいかりや長介を真似て独りごちた。
次郎は仕方なく南海を通り越して路地に入るとこれまたいつも女子で長蛇の列ができているホットケーキ屋が目に入った。
お、ここも大行列と思いきや、今日は列がないな。
たまにはこーいうところも入ってみるか。
次郎は、自分のカラーではないが、店に入った。
カランコロン♪
いらっしゃいませ。
クク、思ったとおり女子だらけだ。
カウンターにお願いします。
ほぼ満席に近い店内のカウンター席に座った。
座ると水とともにメニューを渡された。
ホットケーキと、フレンチトーストが押しか。
うーむ。
ここは、フレンチトーストだな。
おい。
お決まりですか?
決まったから呼んだに決まっているだろう。
どうぞ。
フレンチトーストセットでアイスティーだ。アイスティーは先に。
はい、かしこまりました。
ふぅ。
なんだか調子が狂うな。
しばらくして両隣の先客にはいずれもホットケーキが運ばれてきた。
うーむ、ホットケーキだったくさいな。まぁしかたない。
次郎は持参していた文庫本「革命のリベリオン」を鞄から取り出した。
DNAで人が生まれながらに判断される格差社会に革命を起こすハードな物語だ。
ホットケーキ屋に似合わない内容だ。
そもそも次郎自体、店に似合わなかった。
はい、アイスティーです。
おう。
アイスティーを飲み干し、主人公がリベリオンを見つけたころ、フレンチトーストが着弾した。
お待たせしました。
待つこと20分。ようやくか。やはり釜焼きは時間がかかるな。
ほほう。見事なクリエイティブだ。甘そうだ。
しかし、これに更に蜂蜜をかける。
ぐお、更に甘そうだ。しかし、それとは裏腹にうまそうだ。罪悪感がさらに食欲を掻き立てる。
くお。
次郎はおもむろに一口頬張った。
くお、クリームと柔らかなパンと外側のカリカリかんがたまらん。口の中に甘い芳香が充満する。
くお、なんというビジュアル。
蜂蜜の香りが、すごい。
柔らかい。甘い。やはり外はカリカリ。
こりゃ、女性にとっての革命だな…。
次郎は独りごちた。
パクパク。
はむはむ。
パクパク。
はむはむ。
ゲフッ。
凄いボリュームだった。
おい、会計頼む。
はい、1200円です。
そこまで高くないのもまた人気の理由だろう。
ほらよ、釣りはくれてやる。それで蜂蜜でも買いな。
次郎はキッチリ1200円をカウンターに叩きつけた。
ありがとうございましたー。
コロンカラン♪
ふぅ。食べ過ぎたな。
…たまにはこんな日もあるだろう。
次郎は、地下鉄に降りる間際、一瞬空を見上げたが、そこに青空はなかった。
ふん、今日の曇天はさっきの生クリームを反映しての狼藉か…
その言葉は神保町の喧騒に掻き消えた。
続く。
石窯ベイクブレッドタムタム茶房@神保町
昼時は必ず女性で行列のできるホットケーキの店。空いていたら奇跡なので即入るべし。
3.5次郎