お、おやじ、すまん!
今日は神保町に来たってのに、別のラーメン屋に手を出しちまうぜ。
なんだこの後ろめたさは。別に神保町のラーメンがおやじのところだけじゃないのは当たり前田のクラッカーだってのに…
さてと。行くか。
次郎は神保町に来ていた。いつもの覆面智ではなく、今日は知人に紹介された黒須に行くためだった。
12時半過ぎ、いつもと違うA1出口から神保町を抜け出た。大通りを渡り、靖国通りから一本裏に入った静かな通りにそこはあった。
透き通ったスープが売りの中華そば屋。
ガラガラ♪
席はカウンター8席程度。満席だった。中には待合用椅子があり、次郎はそこに座った。
次郎は食券販売機を見た。
ふむ。迷うな。確か塩がうまいと…よし、決めた。次郎は特製塩蕎麦を押した。
ちょうど一人サラリーマンが出て、一席空いた。
どうぞ。
おう。
塩蕎麦を頼む。
はいよっ。
次郎は待った。透き通ったスープが低カロリーを連想させるからか女性一人客もチラホラいた。
バスガスバクハツ。
なんだか急に思いついて、次郎は独りごちた。
はいよっ、お待ち。
おお!美しい!
底まで透き通っている。まるでカリブ海の水のようだ!!
どれどれ。
うお!透明じゃねーか!
ほう!意外と味がしっかりあるじゃねーか。鶏に…魚だしか、いや昆布か。独特の香りだ。
麺はどうだ?
細麺。そうだろうな。蕎麦だけあって、蕎麦粉の色で少し黒いな。
ズルズルッ。
なるほど、よくスープに絡む。ツルツル過ぎず、逆に食べ応えがある。合格だ。
これは鳥肉だな。柔らかい。ホロホロだな。塩はやはり正解か。煮干しも気になるが。
そして、これは牛肉か?
赤く、柔らかい。ローストビーフのようだな。
全体としてバランスがいい。スープもこの量だと気がつけば飲んでしまうしな。
後味も良い。
ここは、おやじの麺とは逆の良さがあるな。
たまにはこっちに顔をだすか。
すまんな、おやじ。
ご馳走さん。
ガラガラ♪
うぉっと。
出がけにまた女性客が入ってきた。
あぶなっ…
すいません。
いや、いいんだが…
目の覚めるような美人だった。
ふぅ、なんなんだ、この店は。
次郎はラーメンの汗を拭った。
また、来るとするか。
暖かい風。暖かい日差し。
心が浮つく季節。
春…か。
次郎は独りごち、再び靖国通りへ出た。
行き交う人の顔もまた浮ついて見えた。
続く。
黒須@神保町
スッキリ鶏スープ蕎麦。味もしっかりして、後味キリリ。うまい。
3.7次郎