さてと、今夜はとんかつが食いてーな。
次郎は高田馬場にいた。
駅前のロータリー、ビッグボックスの前には、いくつかの50人規模の集団がワイワイガヤガヤしていた。
懐かしいな。俺も昔はあの中の一人だったか。
そして、今は一人とんかつを食べたいだけのサラリーマンになっちまったというわけか。
サラとんだな。
次郎は独りごちた。
さてと、そんなサラとんの今夜はと。
とんかつ激戦区高田馬場。
中でも、成蔵、とん太、とん久の三店舗は三大巨頭と言われている。
久しぶりにとん久にいってみるか。
次郎は若かりし次郎たちを掻き分け、とん久の入っているビルに向かった。
うお、危ねーな。
若次郎とぶつかりそうになる老次郎。
は!
あの子は……
いやいや、寝ぼけたことを。
昔憧れていた先輩に瓜二つの女子大生がいた。
憧憬とは恐ろしい。
思い直して次郎は地下の食堂街へ降りた。
とん久は蒙古タンメンの対面にあった。蒙古タンメンのなかもとには列が出来ていた。
ふん。並ぶほどでもないんだがな。
次郎はとん久の暖簾をくぐった。
一人だ。
奥へどうぞ。
テーブルに着席した。
よし。
ねーさん。
ロースとんかつ。それと白身魚のフライを追加だ。
ハイ。
ふぅ。
次郎は目を閉じた。さっきの憧れの顔が思い浮かんだ。
ハイ、お待たせしました。
突如沈黙は破られ、憧れの先輩は雲散霧消した。
ボリューム満点だな。
まずは、白身魚フライだな。
おお!
ぎっしりだな!
タルタルがうまい。
そして、とんかつだ。
厚すぎず、衣がクリスピー状でサクサクだ。
うまい。これはまた他のとんかつ屋と違うな。
しっかりと揚げてあり、有名店にありがちな肉が噛みきれない柔らかさということもない。
いいじゃねーか。
そして、
味噌汁でホッとする、か…
ゲフッ。
ふー。
食ったな。
ジムに行く意味がねぇな。
まぁ、いい。
おい、ねーちゃん会計頼む。
2600円です。
ほらよ。釣りはいらねーぜ!
キッチリ2600円をカウンターに叩きつけた。
よっと。
暖簾をくぐった次郎。まだなかもとには列が出来ている。
待ちぼうけの人生。
ふん。それも悪くない、か。
次郎は独りごち、高田馬場を後にした。
続く。
とん久@高田馬場
高田馬場三大とんかつのひとつ。肉は薄めで衣がクリスピー。なかなかうまい。他よりも混んでないのがいい。
3.6次郎