くー、さぶっ。
外はさぶいなー。
飲み屋から出た次郎は体を震わせた。今夜は次郎が海外にいたころの友人たちと銀座で久々に顔を合わせたのだった。
みんな変わってない。しかし、日本が窮屈に見えるな。だからこそ、ふてぶてしい顔が光ってたな。
次郎、ラーメン食おうぜ。
友人の一人が言った。
この時間からのラーメンはこたえるんだよなぁ。
しかし、ラーメンという言葉は何よりも次郎を突き刺すのだった。まるで銃剣で突き刺されたように五臓六腑を刺激した。
くっ、さみーし、ラーメンはあったかそうだ。まだ11時だしな、よしいくか!
まずかったら承知しねーぞ!
次郎は叫んだ。
銀座の街はビル風が吹き遊び、次郎たちを締め付けた。酔いも冷め切ったころ、件のラーメン屋に到着した。
ふー、ここか。混んでるな。
友人が店に確認すると、中の席は一杯だった。ま、まさか、この外の簡易な席で食うわけじゃねーだろうなー!
次郎ちゃん、つべこべ言わずに食べよーぜ!ラーメンあったかいし、いいじゃん!
うぅ、この寒空の中食うのか、そりゃねーだろ!
抵抗虚しく次郎は簡易な席に座らされた。
く、次郎は友人を一瞥してメニューを見た。するとその友人は味噌ラーメン四つね!
次郎の分もまとめて注文した。
お、おい、まだ決めてねーぞ!
次郎、うるせーなー、黙って食えよ!一回目は味噌ラーメンなんだよ!
友人に押し切られ、次郎はメニューを投げ捨てた。
ふん、ままよ!もうどーにでもなれだ。
次郎は腕組みをして空を見上げた。
見上げた空は冬の澄んだ空気により、星がきらめいていた。なんだか吸い込まれていきそうで、次郎は少し怖くなった。
さぶっ。ま、まだか…
まだか、ラーメンはっ!
次郎の息が浅くなり、星のきらめきはその光を増した。現実が薄れ、意識がベテルギウスに吸い込まれていく。
あぁ、俺はこのままオリオンの生け贄になろうというのか…まだラーメンも残っているのに…
おまちどーさまー♪
突如沈黙は破られた。
現実に引き戻された。
ふー、助かったか。
なぜか額にだけ汗をかいていた。
さてと、ふん、ありがちな。
ズズッ、ズズズッ。
ほう、意外と味が濃いな。ネギともやしがいいバランスだ。味噌はあったまるなぁ。寒いからなのか、余計にうまく感じるな。味は濃いがスッキリしてドンドンいけてしまう。さすが締めのマジックか。
しかし、ここで残すのが大人だ。俺はもう子供じゃねぇ。茶番はここまでだ。次はおまえらに本当のラーメンばおしえちゃる。
次郎は独りごちた。
さてと、兄さんお会計。
次郎は秘技麺残しの術を施した自分を褒めた。岩崎恭子の金メダル受賞の時のように。
いつの間にか空は雲に覆われ、オリオンは姿を消していた。
逃げたかコンチクショー。
答えはなかった。
先輩残しちゃんうんすか?
もったいないなぁ。
ふん、言ってろ小僧。
大人は全て食わないのが江戸時代からの流儀。本当の大人ってもんに近づくにはまだまだだな。
独身を棚上げして、子供もいる後輩に先輩風を吹かせた。
ぶるっ。
先輩風以外の風を受けて銀座の夜は更けていった。
続く。
ひむろ@有楽町
北海道味噌ラーメン。三次会の締めに。あっさり系味噌ラーメン。味は濃いめ。結構うまい。
3.3次郎