やはり、ラーメンはオヤジの店に限るな。
次郎は神保町にある覆面智を出て黒烏龍茶を飲んでいた。
今日は鮑出し汁の濃厚な醤油ラーメン。鮑の濃厚な黒色のスープが鼻腔から脳を刺激する。そこに出し汁に煮込まれた細かな豚肉が合間って絶妙な味を醸し出していた。そして、それに覆いかぶさるようにしてホロホロと口の中で溶けるチャーシューとシャキシャキのネギ、そして隠し味の青唐辛子のハーモニーが次郎を昇天させた。
ありえねぇ。やはり幸せは今ココにあるんだ。
スープを飲み干してレンゲを器に置いたコトリという音で、なぜかこの前銀座で出会い丸ノ内線まで送ったフォウの顏が思い浮かんだ。
ふん、もう二度と会うこともないのになぁ。人は失くしてから初めて気がつくもんだからな。
次郎は独りごちた。
じゃあなオヤジ!
あいよ、またねー♪
オヤジの声を背中に浴びながら次郎は店を出た。
さて、と。一杯コーヒーでも飲むか。
そういえば、文豪が通った喫茶店があるらしいときいたな。
次郎は神保町の古書店街の裏道に入った。
おぉ、あったあった。
ラビオリ。
ウィンナーコーヒー発祥の店と言われている喫茶店。
店内は昭和風な内装で統一されていて薄暗い。
カランコロン♪
一人だ。いつも一人だ馬鹿やろー!
次郎は呟いた。
奥へどうぞ。一人席に通された。
さてと…
時間は13時。隣にはランチを食べている女子大学生がいた。
ランチにはチキンカレーとナポリタンがあるようだ。うまそうだな。ペチャクチャと話に花が咲いている女子大学生のカレーをチラ見した。
いい匂いさせやがる。いかんいかん、危うく注文してしまうところだった。次はここのカレーを食べてもいいかもな。
次郎はひとりごちた。
おい、店の女、ウィンナーコーヒーを頼む。
はい、かしこまりました。
次郎は神保町の古書店で一冊の本を買っていた。
「銀河英雄伝説」
前から気になっていた冒険ものの小説だった。
次郎はゆっくりとページを繰った。
プロローグで概略が語られ、帝国軍と同盟軍、両軍ともに若き天才軍略家が現れるシーンだった。
お待たせしました。
突如沈黙は破られた。
ほう、うまそうなウィンナコーヒーだ。
ズズッ。
溶けた生クリームの柔らかな甘さが次郎の口に広がった。そしてその後にはコーヒーの苦味が広がった。
むー、絶妙のバランスだ。
二人の若き天才軍略家はお互いの国の老兵たちの常識に囚われない戦法で合間見え、互角の戦いをした。後の活躍が期待される緒戦だった。
まるでスターウォーズだ。
いや、またはZガンダムか。
ちっ。すぐにそっちにいっちまうな。
次郎は独りごちた。
ふー、うまかったな。コーヒーも戦い方も。
おい、女の店員、お代は置いてくぜ。釣りはとっときな!
ピッタリの500円だった。
カランコロン♪
ぐぉ、眩しいな。
3時の陽射しが強烈に次郎の体を射抜いた。
射抜かれたのは俺の心の方か…
次郎は照りつける太陽を薄目で見て、
再び前方に目を戻した。
さてと、帰りは半蔵門線か…
呟いて地下鉄の奥へと消えていった。
続く。
覆面智からの喫茶店ラビオリ。
ランチのゴールデンコース。
覆面智では毎週月曜は数量限定の鮑出し汁。とても濃厚でクセになる。3.8次郎
そして、その後ゆっくりアンティークな喫茶店ラビオリでウィンナーコーヒー。3.5次郎
至福のはしご。