寝屋川のやつ、遅いな。いや、遅いぞ!
次郎は巣鴨駅にいた。改札を出て、寝屋川との待ち合わせ場所である売店の前に佇んでいた。
11時27分待ち合わせと言ったのに。
もう11時40分だ。しかも何の連絡もない。
仕方ない、ラインしておくか。
おい、待ち合わせ場所はわかっているか?
改札の外の売店だぞ。
5分経過した。
しかし、一向に既読にならない。
おかしいな。連絡くらいはよこすやつなのに…
次郎は寝屋川との会話を見返した。
土曜日。
来週の月曜の11時27分すね!承知っす!すす!
だよな。確かに月曜11時27分だ。
…
ま、まさか!来週って、もう一週先のって意味と理解したのか!!
ありえる。既読にならないのもおかしい。
時刻は11時53分。もはや30分経過。これはひょっとするとひょっとするか。
次郎は、決断した。
巣鴨は駒込との間に美しい庭園六義園を抱え、北には名門巣鴨中学・高校、南には東洋大学、更には東京大学がある学園地区だ。
寝屋川との待ち合わせのことなど忘れ、次郎は今日の目的地「生姜は文化」を目指して、学園地区を弛みのない足取りで一心に歩いた。
ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらのぐんたいは
はやさせかいにたぐいなし。
ふぅ、もうまもなくだな。
ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらのぐんたいは
きりつせかいにならびなし。
次郎はまるで月夜のでんしんばしらの軍隊のように整然と歩いた。
着いたぞ、恭一(主人公)。
電気総長を甘く見るなよ。
ガラ♪
いらっしゃっいませ!
次郎は食券機を睨みつけ、いつもは塩チャーシューのところだが、今日は醤油チャーシューにすることにした。
更にはチャーシューご飯まで注文した。
しめて1350円か。まぁそんなもんだろう。
次郎はカウンターに座り、食券を置いた。
醤油チャーシューですねー。
水を飲み、目を瞑る。
チャッチャッチャッ♪
麺の湯切り音が聴こえてくる。
チャッチャッチャッ♪
すると再び月夜のでんしんばしらの行軍が聴こえてきた。
ドッテテドッテテ、ドッテテド
二本うで木の工兵隊
六本うで木の竜騎兵
ドッテテドッテテ、ドッテテド
いちれつ一万五千人
はりがねかたくむすびたり
はい、お待たせしました。
ゴトリ。
突如沈黙は破られた。
醤油チャーシューとチャーシューご飯ですねー。
うお、電気総長が来たのかと思ったぜ。
次郎はまるで恭一の心境になっていた。
そうか、ここは全て鶏肉のチャーシューなんだったな。ご飯までとは徹底してやがる。
どら。
次郎は一口目に鶏チャーシューと白飯を口に入れた。
ほお、アッサリしているが、鶏肉についた醤油味は濃い目で肉が引き締まるな。だが、肉自体は柔らかい。こりゃあラーメンに入った鶏チャーシューも期待大だな。
見事なスープの色だ。
ズズズ。
こちらもスッキリ醤油。鶏出汁も効いており、口の中で柔らか且つキリリとした風味が広がっていく。
麺は平打ちの縮れ麺。短めだな。
ズルズルズル♪
俺は細麺の縮れ麺が好みだが、これはこれで合うよな。
そして。やはりこの鶏チャーシューだ。でかい。柔らかい。嬉しい。
電気総長もきっと喜ぶだろう。
次郎は頬張った。
柔らかく、醤油味がキッチリついて、さらにスープと一緒に食べると絶妙なハーモニーを奏でるな。
ドッテテドッテテ、ドッテテド
さて、途中からはこの生姜満載の酢で味変だ。
次郎は、タップリと生姜酢をかけた。
ドッテテドッテテ、ドッテテド
ズルズル、ズルズル♪
うまい。味が引き締まるな。生姜の後味がとてもさっぱりする。
ズルズル、ズズズー、ズルズル、ズズズー♪
ズルズル、ズルズル、
ドッテテドッテテ、
ドッテテドッテテ、ドッテテド
ドッテテドッテテ、ドッテテド
やりをかざれるとたん帽ぼう
すねははしらのごとくなり。
ズルズル、ズルズル、ズズズー♪
ドッテテドッテテ、ドッテテド
肩にかけたるエボレット
重きつとめをしめすなり。
ズズズー、ズズズー♪
ふぅ、うまかった、ご馳走さん。
電気総長とは、つまり電気の一種ではなく、電気の長、とりもなおさず大将ということさ。
次郎は独りごちた。
ラガ♪
ありがとうございましたー。
ピローン♪
あ、次郎さん、え、今日のことだったんすか!?自分はてっきり来週だと…すす、すいません、すす。
ふん、今更詮なきことだ。
ドッテテドッテテ、ドッテテド
ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらのぐんたいの
その名せかいにとどろけり。
店を出た次郎は、少し逡巡した後、本郷三丁目方面に行軍を開始した。
続く。
生姜は文化@巣鴨
塩味で始まったが、この頃は、醤油味や味噌味、まぜそばも出てきている。
生姜の後味がさっぱりして、スッキリしたスープと鶏チャーシューが絶妙。
3.6次郎