函館次郎のひとり飯クラブ

函館次郎がうまい飯を求めて彷徨い、独りごちる至福の物語。

覆面智27 ラーメン 神保町

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智恵子は言った。

東京には本当の空がないと。

 

 

そんなのは嘘だ。

 

 

冬の高い空の東京。

澄んだ外気が太陽の光を柔らかく包む。

冷んやりとした北風は人々の頬を赤く染める。

こんな冬の朝は、通勤も通学もなんだか嬉しい。いいことがありそうな予感が、皆の顔を上へ上げる。

 

ソラ見たことか。

東京には、本当の空がある。

 

いやむしろ、これこそが次郎が子供の頃から馴染んで来た本当の空ではないだろうか。

 

 

智恵子よ、誰でも故郷の空が好きなんだ。

そして、俺は故郷のラーメンが好きだ。

次郎は独りごちた。

 

 

ガラ♪

いらっしゃーい。

お、おやじ…来ちまったぜ。

 

さて、今日はノーマルな覆面ラーメンだ。

次郎は券売機に800円を入れた。

 

食券を渡す。

いつ帰ってきたんだい?

あ、昨日。

 

リンゴありがとねぇ。

次郎は津軽りんごをオヤジに送っていたのだった。

 

いえ。

食券をオヤジに手渡す次郎。

ノーマルな覆面。ノーマルは久しぶりだ。

 

 

チャッチャッチャッ♪

 

チャッチャッチャッ♪

 

チャッチャッチャッ♪

 

静かな湯切り音のみが店に響く。

 

チャッチャッチャッ♪

 

チャッチャッチャッ♪

 

チャッチャッ♪

 

ごとり。はいよ。お待ちど。

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く、なんというビジュアル。

やはり東京に本当のラーメンがある。

安達太良山には無いかもしれないがな。

ふん。

次郎は独りごちた。

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ズズ、ズズズズー。

ズル、ズルズルズルー。

うまい。斬れある淡麗な醤油スープ、青唐辛子がピリリと効いて身体を火照らせる。

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そして、このほろほろチャーシューが口の中で生チョコレートのように溶ける。

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味玉は、箸を入れると、まるで水風船のように卵黄が弾け飛ぶ。

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次郎は実家の前の細い路地で、同級生と水風船を投げ合ってびしょ濡れになったあの春の日を鮮やかに思い出した。

 

さすがオヤジ。

ラーメン一つでのここまで思い出させてくれるとは。

 

ズズズズー♪

スープを啜る音が店内に響く。

 

 

ご馳走様。

ありがとね〜、また来てね〜。

 

あぁ、また来るぜ。

ラガ♪

 

本当の空から降ってくる穏やかな冬の陽射しを全身に受けながら次郎は神保町から小川町へ向かって歩きはじめた。

 

大通りだというのに鳥のさえずりがかすかに次郎の耳に心地よく聴こえた。

 

 

続く。

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覆面智@神保町

27回目の投稿。久しぶりのシンプルな覆面ラーメン。もやし、味玉、青唐辛子をトッピング。キレとコクのある醤油スープは阿波尾鶏と豚骨が出汁。肉はほろほろチャーシューだがしつこくなく、口の中に入れると溶けてしまう。文句なしの東京ラーメン。

 

3.6次郎