もう10月だというのに東京は真夏のように暑かった。
次郎は増上寺から大門に向かって歩いていた。照りつける日射しで背中と額から汗がしたたった。
ちっ、なんでこんなに暑いんだ。
この温暖化野郎がっ!
次郎は太陽を睨みつけて独りごちた。
さてと、いい時間だ。
時は11時25分。
のもと屋の開店五分前。ちょうどいい頃だった。
次郎は大門にあるとんかつ二大巨頭の一つ、のもと屋に向かっていた。
当然開店まで並ぶものと思っていたが、狭い階段を登り、店に着いてみると既に開店し、先客が8名ほど。
あ、あぶなかったぜ。
いらっしゃいませ。
一人だ。
カウンターどうぞ。
最後のカウンター席に滑り込んだ。
ふぅ。次郎は置かれた烏龍茶をがぶ飲みした。続けざまに二杯お代わりを終えると、メニューを見た。
うーむ。特選ロースもいいが、ここはヒレとのミックスだな。
おい。
はい。
特選ロースのヒレミックスで。
はい、かしこまりました。
注文を終え、戸口をみると、見る見る間に人が並んで行く。
あぶなかったぜ。
次郎は額の汗を拭った。
はい、お待たせしました。
おお、来たか!
毎度パンチのあるビジュアル。今日はヒレもついてさらにボリュームアップだ。
ヒレ肉はその優等生的なイメージと裏腹に野獣的だな。
どれ。ご開陳と。
次郎は肉を横に向けた。
ほほーう、見事なピンクダイアモンドヘッド。
流石だぜ。
ヒレも見事!こりゃ期待できる。
次郎は急な血糖値の上昇を抑えるため、まずはキャベツを一気に食べた。
むしゃむしゃ。
ふぅ。さてと、ではいただくとするか。
まずは特製のわさびダレと醤油のコラボだ。
ふほ。うまそ。
ガブリッ。
うおー!サックサク。しかし、醤油が少し衣を溶かしてその食感がたまらん。更に肉は柔らかくそれでいてヒレのぎっしり感。
そして、パリッとした醤油味と、ほのかに甘く、それでいてスパイシーなわさびが相まって至福の味を作り出す!!初めてヒレをたべたが、うまい!うまいぞ!!
さてと。お決まりのロース。
くー、この脂がまたわさび醤油で引き締まり、それでいて口の中で脂が弾ける。これまた至高の味。たまらん!
そして、お次のヒレはソースと辛子だ。
くー、柔らかなヒレ肉に、少し甘めのソースと和辛子が絶妙の味わいをプラスする。
そして、ロースくんもソースと和辛子をたっぷりつけて頬張るこの贅沢。脂が深い味わいのソースに降り注ぎ、胃を満たしてくれる。
くー、たまらんぞ。
次郎はグビグビと烏龍茶を飲んで口をリセット。豚汁を飲んで、ポテサラを食べる。
そして、再びヒレかつをわさび醤油で頬張る。
この店はやはり醤油とわさびだ。
このキレのある味ととんかつがピタリとシンクロする。シンクロ率はもはや初号機とシンジくん以上だぜ!
次郎は独りごちた。
むしゃむしゃ
サクサク
ズズズー
むしゃむしゃ
サクサク
むしゃむしゃ
サクサク
ズズズー。
ふー、ごちそうさん。
いやー、うまかったー。
友と女は裏切るが、食べ物は裏切らない。
名言だな。ふっ。
次郎はほくそ笑んだ。
おい、会計頼む。
はい。
2600円です。
昼から贅沢しちまったな。まぁいい。
ほらよ、釣りはとっときな。これでわさびでも買いな。
次郎は金皿にきっちり2600円を叩きつけた。
むお!
出口を見ると狭い階段に一階までビッシリとサラリーメンズが並んでいた。
まだ、12時10分だというのに…つくづく正解だったぜ。
ふん、オワリーメンども出直してきな!
次郎は独りごちた。
ありがとうございましたー。
しかし、暑いなぁ。
再びセミの鳴き声が聞こえてきた。一度夏は終わったと思ったんだがな。頑張って生きろよ。次郎はどこに向けて言うともなく呟いた。
照りつける日差しは夏のものであったが、吹き抜ける風には秋の匂いが籠っている気がした。
続く。
のもと屋@大門
大門浜松町地区にあるとんかつ屋。あおきと双璧を成す。衣と肉の組み合わせが絶妙。わさび醤油で食べるのもまた美味。
3.7次郎