ん??
なんだこりは!!
ミートソルジャー!!ソルジャー!?
次郎は弘前から黒石に向かって車を転がしていた。その途中、喫茶店のような店構えの店を見つけたが、車で通り抜ける最中、チラリと目に入ったソルジャーの文字。
飯屋でソルジャーだと!?
よし、引き返そう。
次郎は車をユーターンさせた。
ふ、俺をユーターンさせるなんざ、大した野郎だぜ。次郎は店の前の駐車場に車を停めた。
次郎は店に近寄ってよく見た。
やはり、ミートソルジャー!間違いないな。
この図柄、西洋のソルジャーだ。
次郎はソルジャーという言葉に思い入れがあった。
東京で暮らしていたころ、広告代理店の友人がこう言っていた。
「私はギリギリソルジャーにならずに済んでよかったですよ、あんな部署に行かされたら、まさに、どぶ板営業のサラリーメンソルジャーですよ。」
そうか、ソルジャー、イコール兵士。兵士はすぐ死んでしまう。真っ先にやられてしまう過酷な存在。それは現代ではどぶ板を這い回る営業メンのことを指すのだ。次郎はそう悟った。そして、それは尊敬とともに恐怖の対象になったのだ。
以来、ソルジャーという言葉を聞いたり見たりすると、心がなんとも疼くのだ。
そして、今日、ミートソルジャーに過剰に反応してしまった。
えい、ままよ。
次郎は店に入っていった。
カランコロン♪
いらっしゃい。そちらどうぞ。
11時20分だと言うのに先客は3組。まもなく満席だ。カウンター奥では店主が一人で切り盛りしている。ステーキの鉄板が五枚置かれて大忙し。店主は今まさにソルジャーになろうとしていた。
クククッ。やるな店主。
次郎はほくそ笑んだ。
次郎は先につき、メニューを見た。なんと昼はドリンクが飲み放題。もちろんファミレスのような機械はなく、デキャンタにカルピス、オレンジジュース、ウーロン茶、アイスティーが綺麗に並べられている。これも店主ソルジャーが入れ替えるのか。
大変だな。死ぬなよ。
次郎は独りごちた。
しかし清潔で。なかなかいい店だな。
さてと、
メニューにもソルジャーの紋章が。泣けるぜ。
うーむ、いろいろ気になるが…ここは。
おい、店主。
すいません、少々お待ちください。
店主は五枚の鉄板にステーキを盛り付け大忙し。盛り付け終わると、それをテーブルに運び、再び、サラダとライスを五枚ずつ準備。更にそれを同じテーブルに運んでいる。
次郎は店主ソルジャーに声を掛けること躊躇った。
はい、お待たせしました。
多少息が上がっている店主ソルジャー。
あ、いや。いいんだ。
自然と優しくなる次郎。
では、ランダムカットステーキとハンバーグのセットに、カレーライス単品で。あ、あと目玉焼きをハンバーグに。
はい、かしこまりました。
店主ソルジャーはそう言うと、そそくさとキッチンにもどり、ハンバーグのパテをこね始めた。
ペタペタ♪
ペタペタペタペタ♪
ペタペタペタペタ♪
おーい、お会計お願い。
こっちも会計。
は、はい。お待ちください。
他の客の会計が運悪く重なる。
パテを一度おき、パテソルジャーから会計ソルジャーになる店主。
そして、それを済ませ、手を洗い、再びパテに空気を入れるパテソルジャー店主。
ジュワー♪
良い音が聴こえてくる。
その間にカットステーキを焼く店主。
ジュワワー♪
ふむ、良い音だ。
次郎の胸は膨らんだ。
はい、お待たせしました。
おお、来たか。次郎は通常なら水をがぶ飲みするところだったが、ソルジャーのベトナム戦争のゲリラ戦のような激しさに、水を飲むのを忘れていた。
おお、なかなかのビジュアル。
ボリューミー。さすがソルジャー飯だ。
サラダもシャキシャキだ。ドレッシングも玉ねぎが効いてうまい。やるなソルジャー。
カレーもうまそうだ。昔ながらのポークカレー。
次郎は一口頬張った。
うう、うまい。懐かしい味。泣けるぜソルジャー。
そして。
なかなかのクリエイティブ。
目玉焼きトッピングは正解だな。
次郎はテーブルに用意されたステーキソースをかけた。
うまそうだ。
どら。
次郎はステーキを頬張った。
ほお、ステーキソースが甘辛く、肉も柔らかいじゃないか!
こりゃいい。ナイスソルジャー!
むしゃむしゃ。
そして、ハンバーグは卵の黄身を破ってだな。
ふほ、いい感じだ。
ほお!ぎゅっとしたパテから出る肉汁がたまらん。半熟卵の黄身と相性抜群だ。
むしゃむしゃ。
こりゃ、ソルジャーにとっては最高のご褒美だな。
むしゃむしゃ。
むしゃむしゃ。
ぐびぐび。
次郎はカルピスを何年かぶりに飲んで、その感動に浸るとともに、肉を胃袋へ流し込む。
ぐびぐび。
むしゃむしゃ。
むしゃむしゃ。
ふう。なかなかのボリューム。しかし、これからカレーだ。
むしゃむしゃ。うまいな。ポークが柔らかく美味。
むしゃむしゃ。
むしゃむしゃ
ぐびぐび。
ふー。
ぐびぐび。
むしゃむしゃ。
むしゃむしゃ。
ソルジャーのように一心不乱に食べ続ける次郎。
むしゃむしゃ。
ゲフッ。
ごちそうさんっと。
おい、店主。
はい。
会計頼む。
はい、1630円です。
安いな。さすがソルジャー飯だ。
ほらよ、釣りはいらねぇよ。これで新たなバイトソルジャーでも雇いな。
そう言うと、次郎は店主の手にキッチリ1630円をねじ込んだ。
ありがとうございましたー。
コロンカラン♪
ふー。なかなかいいソルジャーに出会ったぜ。
ここはたまに顔出すかな。店主ソルジャーに敬意を込めてな。
はは。
次郎はなんだか気分が良くなっていた。
車に乗り込むと、いそいそと黒石方面に車を発進させた。
9月も初旬。外気は爽やかな空気。いつのまにか秋が忍び寄っていた。
続く。
ミートソルジャー@弘前
名前が気に入った。ソルジャーとは、都会ではどぶ板営業をこなすサラリーメンのことを言う。特に生保や証券会社だ。そんな彼らに捧ぐステーキ、まずい筈がない。と次郎は独りごちた。甘辛のステーキソースがうまい。肉も固くないし、ハンバーグもカレーもみんないける。街のステーキ定食屋。コスパ良し!行け、ソルジャー!!
3.35次郎