久しぶりに東京に戻った次郎。
羽田から、品川で乗り換えた後、気づけば都営三田線に乗っていた。本当はおやじの店のある神保町で降りるつもりだったが、なんだか降りそびれ、そのまま北へ足を向けてしまった。
電車が巣鴨に着くと、次郎はおもむろに電車を降りた。
ふぅ、なかなか時間がかかったぜ。
折しも四月の始め、入学式に向かう親子で巣鴨駅は賑わっていた。
新しい門出…ってか。
俺は既に青森に門出たがな。前途多難な若者達よ、親からもらった書を捨てて、街へでやがれ!
邪魔だ、どけ!
次郎は入学式親子をかき分け、押しのけ、駅を出ると白山方面に大通りを歩いた。
道も入学式親子で溢れている。
うっとおしいな。
ずんずんずん、
ずんずんずんずん。
?
向こうからものすごい勢いで歩いてくる人影が見えた。その歩くスピードは他を圧倒している。
き、教授!!
おお、次郎くん。どーしたこんなところで。
青森じゃなかったのか。
いや、たまたま今日帰ってきまして。
そうか。
教授は?
この後、母校の高校の入学式の挨拶で、壇上に立つんだよ。
そうなんですか。それはそれは。
それはそうと次郎くん。
まだ講演にも時間があるし、
どうだ、昼飯でも。
まぁ、ちょっと昼には早いんだが。
あ、いいんですけど、僕これから、ラーメン食べようと思ってたところでして…
おお、そうか、じゃそこに行こう!
案内してくれ。
わかりました。
ずんずんずんずん♪
教授のスピードに押され、次郎もギアをあげた。
ずんずんずんずん、
ずんずんずんずん♪
教授、ここです。
おお。
危なく通り過ぎるところだった。
生姜は文化、か。面白い名前だ。
はい。
ガラ♪
2人だ。
空いてるところどうぞ。
まずは食券を買うんです。
そうか。次郎くんと同じものにしよう。
そうですか、では、定番の塩ラーメンに、チャーシューご飯でいいですか?
おお、この店は塩が定番か。ここは私が出そう。
あ、いや教授いいですよ。
構わん構わん。
そう言うと、教授は3000円を機械に入れ、次郎は食券を買った。2300円。一人当たり1150円だ。
さてと。
カウンターに座る2人。
どうだね青森は?
はい、自分にとっては未開の土地というか、新しい発見が多いですね。
そうだろう。君はずっと東京にいたからな。しばらくはローカルで修行するといいだろう。楽しんでな。
は、はい。
教授に言われると、なんだか心が落ち着いていく。
はい、お待たせしました。
ベストタイミングだな。
次郎は独りごちた。
おお、美しいビジュアル。さすがだ。
こりゃうまそうだな次郎くん。
はい。
透明なスープ。チャーシューの脂が浮かび、濃厚な気配が漂う。
うーん、生姜が効いて、うまい。アッサリなのに濃厚。たまらん。ややスープは熱めだ。
この、ややきしめん風の麺が良くスープに絡む。
ズルズルッ、
うまい。
そして、
このチャーシューだ。
次郎はチャーシューを口に放り込んだ。
く、柔らかく、ホロホロだ。
うまい。味もしっかりついて。脂部分がくどくない。
はい、チャーシューご飯です。
きた。チャーシューの再来だ。たまらんな。
次郎は卵を破り、かき混ぜた。
ふー。うまそうだ。
チャーシューとご飯と卵が三位一体となり、口内で爆発する。
うまい。
次郎くん、うまいなこりゃ。
ですね!
むしゃむしゃ。
ズルズルッ
ズズズー、
ズルズル、ズルズル、
むしゃむしゃ、
ズズズー、ズズズズズズー、
ズズズー♪
ふぅ、食ったな。
いやー、腹一杯だよ次郎くん。
ですね。
じゃ行くとしようか。
はい。
ラガ♪
2人は店を出た。
東京の春は、暑い。
駅まで歩こうか。
ですね。
ずんずんずんずん、
ずんずんずんずん、
あ、じゃ僕はここで。
あ、ここなんすね教授。
まぁな。じゃまた。
そう言うと、教授は角を右に曲がり、奥へと歩いて行った。
ずんずんずんずん、
ずんずんずんずん、
ずんずん…
やがて見えなくなった。
相変わらず速い。そして潔い。
さすがだ。
次郎は再び巣鴨駅に戻り、山手線のホームに消えて行った。
相変わらず、入学式親子で巣鴨は溢れかえっていた。
続く。
生姜は文化@巣鴨
塩生姜ラーメンの店。覆面智の店主と知り合いのよう。だからかどうかわからないがチャーシューがホロホロでうまい。生姜の味がスープに効いていて、塩に深みが出てうまし。
3.6次郎