ついに、きちまったな。
次郎さん、入りますよ。
お、おう。ま、待ちやがれ!
言葉は虚しく足元に落ちた。
次郎は後輩の二本柳あとを追って階段を上がる。
そこには、割と広めのジンギスカン屋が広がっていた。大きな縦長の吸気口が2列に並びその両側に4人ぐらいずつが座れるスペースがある。
とうの昔、もう10年以上前に次郎が通っていたジンギスカン屋だった。
店名は変わり、今は浜塩と炊炉(はましょーとたくろー)という変わったネーミングになっている。
拓郎と浜省のポスターが貼ってある。
店内を見回すと、ネギ塩レモン。生ラムに挟んで食べるとうまいらしい。バターコーンも気になる。
しかし、グランドメニューは、と。
おお、店長相変わらずだぜ。
ビールと、そして、生ラム肩ロースだな。そして、ベーコン。さらに生ロース。そして野菜だな。
わかりましたー。二本柳が店員を呼ぶ。
あら、ひょっとして次郎さん?
お、おお、女将。
お久しぶりー。
覚えてたか。
少し嬉しい再会。
次郎さん、顔広いっすね。
当たり前よ小僧。
はい、ビールね。
来た。
乾杯!
ぐびぐび!ごくごく!
ぷひょー♪
うめー!
まずはビールで喉を潤す二人。
はい、肩ロースね。
それとベーコン。
うまそー!
二本柳は慣れた手つきで野菜と肉をオンした。
ジュワー♪
いい感じだ。肉の色が変わっていく。
二本柳、慣れたものだな。
はい、通ってますから。昔の次郎さんみたいにね。
ふん、歴史は繰り返される、か。
俺が二本柳の頃、ジンギスカンは安いから、かなりのヘビロテを繰り返していた。まるで坂本龍一の曲のようだ。いい曲は何度もサビがリフレインされるものだ。
次郎さん、次郎さん、
ん?
焼けましたよ!
お、おう。
う、うまそうだ。どれどれ。
ここは、タレが絶品なんだ。
次郎は特製のタレをつけ、肉を口の中へ放り込んだ。
くお!あの時の味と変わらない!うまい!
程よい塩加減。肉にしっかり混ざり合うタレ。醤油ベース。たまらねぇ。
そして、肉は柔らかく、ジューシー。
ジュワー♪
この野菜もうまいんよな。しんなりした頃が食べごろだ。キャベツと玉ねぎ。そして、ねぎ。
シャキシャキとしんなりのせめぎ合い。最強の盾と最強の矛。どちらが強いのか…に似ているか。
次郎は独りごちた。
しかし、うまい!何皿でもいけるな。
生ロースです。
うおー、来たな。これもまた柔らかそうだ。
そして、ベーコン。
く、うめぇ。焦げ目が最高だ。
口の中で脂が溢れる。たまらねぇ。
生ロースもさらに柔らかい。
しかし、俺はやはり肩ロースだな。
おい、女将、肩ロースもう一枚。それと、ビール!
あいよ。
くー、うまそうだ。
むしゃむしゃ
ジュワー♪
むしゃむしゃ
ジュワー♪
むしゃむしゃ
ゲフッ。
食ったなー。
食いましたねー次郎さん。
あ、あぁ。
よし、女将、お会計頼む。
はいよ。
7200円ね。
やはり、リーズナブルだ。
よし、二本柳、ここは俺に胸をかりていいぞ。釣りはとっとけ。
は、はい、ありがとうございます。
次郎は4000円を二本柳に手渡した。
釣りって、400円多く出しただけじゃん…
二本柳は独りごちた。
ありがとうございました。
また来てくださいねー♪
次郎と二本柳は店を出た。
ふー。食ったなー。
すねー。
次郎さん、泊まりはどこで?
函館駅前だ。
そーすか、じゃ、僕は逆方向なので。
おう。またな。
次郎は帰る二本柳の後姿を一瞥すると、くるりと向き直り、駅とは逆に五稜郭方面に向かって歩いていった。
角を折れ、馴染みの塩ラーメンの店に向かっていった。
春の風は冷たく、ここが北国であることを次郎は鮮やかに思い出したのだった。
続く。
浜塩と炊炉@函館五稜郭
昔から函館にあるジンギスカン。次郎的には一番うまい。肉は柔らかいしリーズナブル、タレがめちゃうまい。これにおろしニンニクを入れるとまさに神の味
3.7次郎