栄通りか。懐かしいな。
次郎は独りごちた。
高田馬場駅を早稲田通り沿いに出て高架下の横にある裏通り。その名を栄通り。ここは次郎が学生時代に頻繁に通った通り。安い居酒屋、定食屋、ラーメン屋、怪しげな店が並び、店は変われど、今もなお通りの猥雑な雰囲気は変わらない。
さてと、今夜はここで飯でも食ってくか。
次郎はぷらぷらと栄通りに入り込んだ。
チェーン店のラーメン屋、定食屋が目に飛び込む。呼び込みや怪しげな外国人女性も立っている。
さてと、どーするか。
少し奥まったところにある洋包丁という定食屋が目に付いた。
こんな店あったか…
怪しいな。しかしどこか懐かしい。
よし、今夜はここだ。
うーむ、ここはポークからし焼肉だな。メンチカツもつけよう。これで770円は破格だ。
店内を覗くとしなびたサラリーマンしかいない。
ふん。お仲間だな。
グイ♪
はいよー!
変な挨拶だった。
次郎は奥に座り、食券を出す。店主らしき男性とアジア系の年季の入った女性。にこりともしない。これがまたいい。
店主は次郎の食券をおもむろに掴むと後ろを向き、料理を作り始めた。
中華鍋がいい音を奏で始める。
ソとラのハ長音か。いや、よくわからん。
次郎はひたすら水を飲んだ。
はいよ。
店主がポーク皿を渡してきて、女性は無言でライスと味噌汁を渡してくる。
ピクリとも表情が動かない。
なんだかグロテスクなビジュアルだ。しかし風情がある。
うお、黒胡椒が効きすぎてうまい。なんじゃこりゃ。このカレーパスタも懐かしい味だ。
お、意外にこの味噌汁うまい。コクがある。メンチカツはいかにも付け合わせにありそうな味だ。しかし、やはりこのポークばら肉、うまいな。ご飯が進んじまう。学生は大喜びだろう。
むしゃむしゃ。
むしゃむしゃ。
ゲフッ
食ったな。なんだが、腹が一杯だ。油のせいか。学生時代を思い出すぜ。
ふぅ…
さてと、じゃあな、またくるぜ!
した!
また短い挨拶が飛んでくる。
グイ♪
ふー。あっという間に終わったな。こりゃはしごもあるな。
次郎はプラプラと栄通りの奥に消えていった。
まだまだ馬場の夜は終わらない。
続く。
洋包丁@高田馬場
懐かしの定食屋。学生、サラリーマンの味方。
味はなかなか。
3.4次郎