お、あったあった。
まだあったとはな。
次郎は早稲田にいた。高田馬場に仕事で寄った帰りがけ、早めの夕食にありつこうとし、気がつけば早稲田方面に歩いていた。
昔懐かしい早稲田通り。次郎の学生時代の甘酸っぱい記憶が呼び覚まされる。
この道でラーメンのはしごや牛丼のはしご、ハンバーグのはしごもしたっけな。
若かったなぁ。
次郎は独りごちた。
明治通りに差し掛かる手前の小道を左手に入ったところに、学生時代に良く通ったラーメン屋があった。
変わらずぼんやりとした灯りが夜道を照らしている。
ガラガラ♪
次郎が扉を開けた瞬間、逆側から同じような力がかかり、扉は2倍の速さで開いた。
うお!
中から5人ほどの学生グループがドヤドヤと出て来た。
うめーな!
いや、うめー!
口ぐちに叫んでいる。
ふん、小僧どもがっ!
この辺の学生のくせにこの名店を知らないとは。甘いぜ。
しかし、次郎も、初めて渡なべに入った時は、同じようなことを口走り、同じような冴えない学生だった。
ふん、成長しろよ。若造ども。
晴れやかな気分だった。
さてと。
む。玄人の次郎さんからすると…
オーソドックスならーめんか、いや、ここはこの限定の岡山笹岡らーめんにしてみるか。
エイヤッ!
掛け声とともに、食券を購入した。
はいよ。
どうぞ奥へ。
カウンターの奥へ座った。
入れられた水をがぶ飲みする次郎。
ふー。
落ち着いたな。
チャッ、チャッ、チャッ
チャッ、チャッ、チャッ
小気味好く湯切りする店員。
期待できそうだ。
はいよ。
ゴトリ。沈黙は破られた。
つお、なかなかのビジュアル。
渡なべらしからぬアッサリ醤油。
艶ゆかで透き通るスープだな。
ほう。薄口。しかしコクがある。鶏肉の良い香りだ。
食べやすい細麺。
ズズ、ズズズズ、ズルズルズルー!
次郎は一気に啜った。
ほう、うまい!
アッサリスープをよく引き込む柔らか細麺。一緒にネギとメンマが合わさると更に旨味が増す。食べる度に引き込まれていく味だな。
そして、この鶏肉。
スープにも鶏肉の味が良く出てる。柔らかいが少し歯ごたえもある。このスープに良く馴染む。
ズルズルズル!
ズズズー!
ズルズルズルー!
ズズズズ、ズルズルー、ズズズズー!
ズルズルズルー!
プハーっ。
あっという間の戦闘だった。
アッサリなくなっちまった。
まだ全然食えるな。
ふん、なかなかだったな。本来の渡なべとはだいぶ路線が異なるが、そのポテンシャルを十分に感じさせる出来。
衰えてないな。
また来るぜ。
そう言うと、次郎はそそくさと店を出た。
ラガラガ♪
ふー。
ヤバイな、まだ全然いける。
こりゃ久々のはしごか…
そう呟いた横から、新たな冴えない学生が入店していく。
ふん、そうしてみんな大人になるんだぜ。
次郎は独りごちた。
早稲田通りのネオンがなぜだか輝いて見えた。
続く。
渡なべ@高田馬場と早稲田の真ん中。
本来は濃厚な魚出汁スープのラーメン。しかし、今日の限定の一杯はアッサリ鶏ガラ醤油。ポテンシャルを伺える一杯。どちらもうまい。
3.55次郎