「ロージーちゃん、だーまー?」
次郎行きつけのマッサージ屋のゴッドハンドK、略してKからメールが入ったのは午後6:30。高田馬場と早稲田の間にあるドトールコーヒーでソイラテを飲んでいた時分だった。
約束は7時だが、早いな。
じゃあ行くとするか。
次郎は飲み残したソイラテを持ち、立ち上がった瞬間、見るからにウダツの上がらなそうなジジイが次郎にぶつかった。
うぉう、ソイラテが手と床に溢れた。
熱い、このヤローどこ見てやがんだ!ボケがッ!
次郎は熱さの余り、ジジイをしこたま怒鳴りつけた。
ジジイは、右往左往している。
どーする?コマンド.
魔法を使う。
ジジイに202のダメージ。
ジジイは死にそうだ。
もう、いい、行けよ!
次郎はバシルーラを唱えた。
ジジイは彼方へ消え去った。
だ、大丈夫ですか?
ドトールの店員がオシボリを持ってやってきた。
次郎はそれをむしり取ると手を拭いた。
ちっ、服につかなくてよかったぜ。全く…
いかん、行かねば。
次郎はそそくさと店をでた。
ふー、とんだ災難だったぜ。
まぁいい。しかし、腹の減った次郎に早稲田通りは誘惑の巣窟、地獄の一丁目だ。
次から次へとラーメン屋が押し寄せる。
ぐ〜きゅるる〜。
やばいな。腹が鳴ってらぁ。
まだか、約束の店は?
おお、これだな。はちまん。
地下か。
次郎は階段を降りていった。
扉を開けると既にほぼ満席。その奥にGDKはいた。
遅いよ〜。
すまへん。
まだ時間前ではあるが、そこは御愛嬌。
まぁ座んなよ。
おう。なんとも旨そうな匂いが店内に立ち込めている。
ぐお、旨そうな焼き鳥だな。たまらん。
じゃあ、大将、おひたしとえび芋の揚げ物、それとはちまんサラダね。
はいよ〜。
Kは常連。注文は任せることにした。
しばらくすると、前菜が運ばれてきた。
えび芋にサラダ。
次郎とKはビールで乾杯した。
いやー、たまには外で一杯やるのもいーねー。
ですねー。
む、このえび芋、うまい。ほふほふで里芋のように途中からしっとり。塩がいい塩梅だ。
サラダも食べやすい。レモンが効いている。
よし、これで急な血糖値の上昇は避けられたぜ。
じゃ、焼き鳥いこうか〜。
ヨロシク。
アスパラ巻き
しそ巻き
胸肉
くー。どれもうまそうだ。
次郎は焼き鳥に食らいついた。
ジューシーで、いい塩加減。うまい。後味がサッパリしていくらでも食えるなこりゃ。
でしょ〜
日本酒いっちゃおうか。
ですね。
大将〜、冷やよろしく〜
あいよ。
しばらくしてお勧めの日本酒が出てきた。
ぐ、うま!すっと胸に消えていく。その割に飲みごたえのある後味。焼き鳥に合う。
うまいね〜。
ねー。
だんご、うずら、皮です。
くぁー、旨そうだ!特にこのだんご。つみれと言わないらしい。
うー、このだんご、ミンチに混じって軟骨が入っていてうまい。けしの実も練りこまれている。ジューシー且つ繊細、素晴らしい塩加減と焼き加減。たまらん!
このうずらがまたうまいのよ〜
なに。ほう!
確かにうまい。これは、うずら史上一番うまいかもしらん。なんと表現して良いのやら…いや言葉なんて野暮だ。とにかくうまい…醤油につけてあるのが決め手か。
この皮もパリパリで食べ応えがあって脂がジューシー。くそ、なんてことだ!
次の日本酒は篠峯です。
う、うまい…だめだこりゃ。今夜はもう、最高やないか。
でしょ〜日本酒もこの店凄いのよ〜
さすがK。ゴッドハンドなのはマッサージだけじゃない。
厚揚げと、軟骨の辛焼き。
優しい厚揚げ。
そして、軟骨の辛焼き。
これはね、ネギとタバスコを混ぜてあるから、串から肉をとって混ぜて食べるんだよ。
なるほど。おお!このネギがシャキシャキで、タバスコと軟骨に合う。軟骨自体コリコリで骨に付いた肉がまたうまい。噛んだ時に口の中に広がる肉汁は天国への入口だ。
次はこれね。
そして、新たな日本酒は熱燗で。群馬か。こりゃまたうまい。
はい、手羽先とオクラね。
終盤戦に近いところで供される手羽先。脂が乗っているため、最後の方に出てくる。入口を開けて天国への階段を登り始めたKと次郎。
ぐお、ナンジャこの手羽先は。骨にかぶりつく次郎。骨に付いた肉から肉汁が弾け飛ぶ。うおぉ!だめだこりゃ。旨すぎる。
そして、オクラがシャキシャキして口の中をこざっぱりさせる。
はいよ、次の日本酒ね。
若松。くそコレもまた格別。辛口。しっかりとした飲み口。
さて、そろそろ、締めのそぼろ丼にいこうか。
大将、そぼろ丼2つ。
はいよ。
く、そぼろ丼か…腹は一杯なのに、待ち望んでしまう別の自分と引き裂かれるもう一つの自分。アイデンティティの崩壊だ。
はい、お待たせ。
それと締めの日本酒ね。
くそ、なんというビジュアル。これが不味いわけがなかろう。そして締めの熱燗。
そぼろの上に鎮座したうずらの生卵を割って一気にかきこむ。
ふ、ふ、うまひ!!
むしゃむしゃ。
甘くて辛くてジューシー。
鳥スープかけて食べる人もいるよ〜。
おお、なるほど。
一緒に出てきた鳥スープをかける次郎。
そぼろ丼鳥スープ漬け。贅沢にも程がある。贅沢は敵と言われたWW II時代に生まれなくて良かったぜ。
次郎は独りごちた。
締めの熱燗がまた五臓六腑に染み渡る。
く〜。
ゲフッ
もう食えん。
うまかったね〜。
ほんとですね。
ありがとうK。
またいこうよ〜。
あ、お持たせのそぼろ丼弁当も頼んどいたから。これは明日食べるといいよ。冷えるとまた味が変わって美味しいんだよ〜。
な、なんと、さすがK。粋な心遣い。今から明日が楽しみだ。
じゃ、お会計。
はい、二人で18400円ね。
これだけ食べて飲んで、これでいいのか…半端ないぜ。
二人は割り勘して、店を後にした。
ふらふらと千鳥足の二人。
じゃ、食後の運動がてらこのまま青山まで歩いちゃおっか〜♪
秋の風が涼しく気持ちの良い夜。
ふらふらと早稲田大学を越え、二人は夏目坂を上っていった。
三日月に照らされた二人の影は小さくなって、やがてそれも見えなくなった。
続く。
はちまん@早稲田
早稲田の老舗焼き鳥屋。全ての品物が丁寧に作られていて、そしてうまい。柔らかくジューシー。日本酒の種類も半端ない。特に肉だんごと軟骨、そぼろ丼、えび芋の素揚げは次郎的には絶品。辛焼きもうまい。
4.0次郎