農大カツ丼。やっと出会うことになったな。
次郎は独りごちた。
以前から通っているとんかつ屋山ノ内。世田谷通り沿いの農大の前にある。
昔ながらのとんかつ屋で、初老の夫婦が切り盛りしている。
次郎はロースとんかつしか食べたことがなかったが、巷では農大学生のための農大カツ丼で有名な店である。
次郎は、店に入るなり、農大半カツ丼、そして、ロースかつ定食の2つを頼んだ。
既に上級クラスのなりだ。
はい。かしこまりました。
店主が答える。
暫くして、まずは農大半カツ丼が出てきた。
おお!これだ!
この、完璧なまでのカツ丼。これでハーフか。
さすが学生向けだ。
こりゃうまそうだ。この玉子とじと、甘辛ダレのご飯。最高の組み合わせだ。
どれどれ。
ほう!うまい。いい感じのバランスだ。玉ねぎも甘く、とんかつの衣と豚肉、卵が絶妙なバランスだ。豚肉の脂身が荒々しく食欲をそそる。
うまい。
むしゃむしゃ。
次郎は無心にカツ丼を食べた。
暫くして。
お待ちどう様です。
ロースかつ定食がでてきた。
ご飯は少なめにしてくれている。
この豚肉を存分に使った豚汁がまたしょっぱくてうまい。
たまらん。
ズズズズ。
うまい。
そして、
このとんかつ、なぜか衣がとってもうまい。使っているラードがいいのか、サクサクなのにしっとりとして尚且つ独特の旨味がある。それにこのぎっしり系の豚肉がピタリと合う。噛みしめると肉汁が出て、さらに味に深みが増す。なんとも贅沢で暴力的な味。
うまい。有名店のいかにもなとんかつもいいが、ここのとんかつは素朴なのに、旨みが段違い。
白飯がすすむ。
次郎は半分は洋辛子とソース、残り半分は醤油で食すダブルアクセル派だ。
とくに、醤油は衣の味を一層引き出し、噛み締めた時の醤油と肉汁のコラボレーションがたまらなく旨い。
くぅー。たまらねぇ。やはりここはロースかつだな。
農大カツ丼も食えたし、今夜は言うことないぜ!
次郎は心の中で雄叫びをあげた。
そして、ロースかつ定食に付け合わせのナポリタンがまたうまい。懐かしさと安心感を誘う。なぜかただいまと言わずにはいられない、そんな心持ちになる味。
ふー。
さすがに腹一杯だ。
次郎は最近ジムに通い、痩せようと努力しているものの、今夜は度返しだ。いや、倍返しだ。
時に暴力的に飯を喰らう。それでこそ人生ってもんよ。
さてと。
おい、店主、会計だ。
はい。
1900円です。
こんだけ食べて1900円。やはりお得だぜ。
ほらよ。釣りはとっといてくれ。
これで新しいラードでも買いな。
次郎はキッチリ1900円をカウンターに叩きつけた。
ガラガラ♪
次郎は店を出た。
この頃の夜はすっかり涼しくなった。
いつのまにか秋が来ていたようだ。
目にはさやかに見えなかったがな。
誰かの詩を口ずさみながら、次郎は馬事公苑方面に消えていった。
続く。
山ノ内@千歳船橋
農大カツ丼で有名な店だか、真骨頂はロースかつ定食。通は醤油でいただきます。
懐かしく優しく、そしてしっかり旨い。
3.7次郎