お、おら死んじまうよオヤジ!!
お、今日は休みかい?
オヤジが聞いてくる。
いや、仕事は遅めからで。
そうかい。今日のはキてるよー。
食券は1200円。日替りラーメン一択。毎月出し汁の素材が変わるオヤジの店。今月はあん肝がそれである。年に一月訪れるあん肝出し汁ラーメン。
間違えいなくうまい。次郎は今まであん肝で間違えた記憶は無かった。
悪い肉も。
カウンターで100円手渡す次郎。
はいよー。
ちゃっちゃっちゃっ
ちゃっちゃっちゃっ
小気味良く繰り返される湯切り音。
ちゃっちゃっちゃっ
ちゃっちゃっちゃっ
リズミカルにこだまする。
口の中にヨダレが溜まってくる。
ゴクリ。
生唾を飲み込んだ。
ごとり。
ラーメンが目の前に置かれる。
はいよー。
ぐ、ぐお!!
キ、キた。このビジュアル。間違いない。
間違うわけがない。
な、何というあん肝の量。
ヨダレが止まらん。
次郎は恐る恐るあん肝スープを口に運んだ。
ぐぉあ!!
う、うま過ぎる、うまいのが過ぎるぞ!!
あん肝とこの濃い阿波尾鶏の醤油スープ。尖りまくってる。しかし深い味わい。ただ濃いだけじゃない。様々なダシにあん肝が組み合わさって至高のスープに仕上がっている。
そして、この悪い肉。
醤油に漬けた豚ばら肉。
この濃いスープと相まって悪魔のような深い味わい。
エロイムエッサイム、エロイムエッサイム。
次郎は指で六芒星を切った。
そして、この卵縮れ細麺。最強コンボ。
間違いない。
ズルズルッ!!
次郎は勢いよくかきこんだ。
う、うまいが過ぎる!
きっと死ぬ前に思い出す味になるのだろう。
次郎は独りごちた。
ズルズルッ
ズルズルッ
ズズズズッ
ズルズルッ
ズズズズ、ズズズズー!!
ふー。
あっという間の邂逅だった。
しかし、満足だ。
もう死んでもいい。
次郎はそう感じた。
おやじ、うま過ぎたよ。
ありがとねー。また来週まってるよー。
くっ、ら、来週も…
食べたそばからまた食べたくなる中毒性。
まるで麻薬だ。
次郎は店を出て、神保町の街をゆらゆらと歩いた。
まだ恍惚感に体が火照っている。
この後の仕事は…さぼっちまうかな。
次郎は暫く街を歩き続け、フラリと喫茶店「さぼうる」に誘われるように入っていった。
続く。
覆面智@神保町
がんこラーメン一条流。出し汁は基本的に阿波尾鶏のまろやかな味。そして、ひと月ごとにプラスで出し汁の素材が変わるがわる追加される。あん肝はまた格別。火曜は塩ラーメンの日。水曜は会員限定の濃い出し汁の醤油ラーメン。
4.4次郎