こんなちんまりとしていたとはな。
次郎は独りごちた。
次郎は友人に勧められたカレーショップを目指していた。
東北沢。ちんまりとした駅。まだ建て替えられたばかりで綺麗だった。
駅を出ると入り組んだ細い道が四方八方へと伸びている。空からは柔らかな陽ざしが小さな家々を照らしだしていた。
件のカレーショップはここから下北沢方面に旧線路沿いを歩き、少し右に逸れたところにあるらしい。
近くに下北沢の大きなビルが見える。駅間が近いが静かな街だった。
嫋やかな春の陽気を噛み締めながら、家々の間の細い路地をゆっくりと歩く。廃線となった線路の跡地がなんとなく悲しい。
なんだか、もう十分満たされた気分だな…
うおっと!ここか!!
少し広目の道に出たところにそれはあった。
カランコロン♪
狭い店内。小さな券売機で食券を買った。
メニューは1300円のカレーか1500円のカレーセットの二つ。セットにはラッシーと副菜が2種類付いてくる。
ならば迷わずセットだな。
お好きな席へどうぞ。
次郎は奥の席へ着席した。
カレーが3種類ありますが、どちらになさいます?チキンニハリが基本になります。
チキンニハリ
和風黒キーマ
トマトパニール
の3種類あった。
よし、次郎様は応用自在、
黒キーマ、トマトパニールの二つで頼む。
はい、かしこまりました。
あれのうち2つが、注がれるわけだな。
次郎が厨房に鎮座しているカレー鍋をボンヤリと見ていると、新たな客が入ってきた。
いらっしゃいませ。常連客が、久しぶりなどと声を掛けているが、どこかで見た顔…
ほう、いぶし銀のメガネタレントだな。この辺はやはり業界系が多いようだな。
はい、お待たせしました。
ほう、美しい。副菜も綺麗だ。
ご飯はトマトと野菜を入れて炊いてます。
なるほど。
では、黒キーマから。
ほう!ピリリとして、キーマのそぼろが野生的だ。そして、後味が少し酸っぱいがそれが絶妙なハーモニーだ。口をさっぱりさせて後を引く。
おう!このトマトは甘いな。しかし、口の中で咀嚼すると、なんとも言えない優しい味が広がる。これは黒キーマと絶妙のバランスを形成している。
いいじゃないか!
この副菜、どれもすこし酸っぱいが、さっぱりしてうまい。
全体で1500円は少し高いが。
お客様、こちらスタンプカードです。
三回来ていただくと、四回目はただになります。
ほう。
??
なんじゃそりゃ、かなりのサービスだな。つまり値段は3/4か。
オープンしたばかりなので。
なかなかの心意気。
どうりで店主の顔も黒いわけだ。
妙に納得する次郎。
さてと、ご馳走さん。
うまかったぜ。またくるよ。後三回はな。
カランコロン♪
次郎は店を出た。
店の前の道は狭いが、車通りが多くスピードも速い。
ふん、あぶねーな。
生き急ぐ者は死ぬのも早いんだぜ。
夜、星は輝くんだぜ。
相変わらず穏やかな陽光が次郎を包む。
冬過ぎて 春来たるらし しろたへの…
か。
次郎にそよ風が纏わりつくように吹きつけた。
続く。
カレーショップ 涅槃@東北沢
インドカレーライスの店。かなり塾考されて作られていてうまい。後味が爽やかでヘルシー。女性が喜びそう。店にはなんとなく業界の匂いが。スタンプカードの特典がすごい。
3.55次郎