次郎は自転車を走らせていた。
渋谷から西麻布、西麻布から六本木、六本木から六本木一丁目。
上っては下り、下っては上った。
寄せては返す波のようにすり鉢状の都内を疾駆する次郎。何度目かの下り坂を下りたところで一息ついた。ふと見ると、That’s 東京 を絵に描いたようなビル群のど真ん中に何軒かの定食屋が並んでいた。
その内の一軒に目が止まった。
ステーキテッペイ…か。
時刻は18:30。
早めの夜飯も悪くはないな。
良くもないがな。はは!
次郎は独りごちた。
ガラガラ♪
先客は白髪のオヤジが一人。
まだ早いからな。よしっと。
次郎はカウンターに座った。
いらっしゃいませ。
メニューです。
ほう。小綺麗な内装だ。第一印象は悪くない。
良くもないがな。なんてな!はは!
次郎は笑いを堪えた。
さてと …ハラミステーキがうまそうだな。
む…いかん、ステーキよりもこのチーズハンバーグに惹かれちまう。
昨日もハンバーグだったのに。いかん。
おい、兄さん。
はい。
チーズハンバーグセットで。それとホワイトアスパラサラダもな。
はい、かしこまりました。
やってしまった。ステーキ屋に来たってのにハンバーグか。しかし、うまそうなビジュアルだったな。
まずはセットのサラダです。
ぐ、これはまさか、このドレッシングは、オニオンガーリックドレッシング。幻の逸品だ。これをかけたら何でもうまいという伝説の…
いかんいかん、焦っては駄目だ次郎。
次郎は自分をたしなめた。
どれ。
ぐぉ、やはり、伝説のドレッシングだ。うまい。単なるキャベツが高級サラダに早変わりだ。
はい、アスパラサラダです。
ぐお、でかい!
そして、このホワイトアスパラ、まさか…。
次郎は箸を入れた。
やはりそうだ!とろっとろだ。
そして、マヨネーズはかかっているものの、この伝説のドレッシングにつけて食べないわけがなかろう。
うまい!
これはサラダというよりアスパラです!
チョーヤのCMか!
はい、チーズハンバーグです。
ぐお、焼けたチーズの良い匂い!
ビジュアルも写真以上だ。
おぉ、やはり少し固めで肉ぎっしり系だな。この周りの海のようなデミグラスもいい。
うまい!
熱い!
肉汁がデミグラスに溢れでて、それを一口に肉と併せて放り込む。まるで異種格闘技戦だ。
くそ、うまい!
とんだ店を見つけちまったな。はは!
ムシャムシャッ
ムシャムシャッ
うまい!
ムシャムシャッ
はぁはぁ。
すごいボリュームだった。
ゲフッ。
もう食えん。
おい、兄さん、会計頼む。
はい、3600円です。
まぁ肉もサラダもそれなりにボリューミーだからな。肉は質にこだわりアリだしな。次はハラミステーキだな。きっとニンニクの効いたソースなんだろう。期待できる。
ほらよ。
釣りはいらねーぜ!
次郎はキッチリ3600円をカウンターに叩きつけた。
まいど!
ガラガラ♪
ふぅ。
店を出た次郎。
今夜は冷えるぜ。
三寒四温。寒い日と暖かい日が繰り返す季節。まもなく春が訪れる。
春が訪れるのは東京だけか。それとも俺にも…
次郎は空を見上げて独りごちた。
しかし、霞んだ空の横にそびえ立つ高速道路の騒音に次郎の呟きはすぐにかき消された。
ふん。
再び自転車に乗った次郎。
寄せては返す車の群れを横目に次郎は大都会の藻屑と消えた。
続く。
ステーキテッペイ@六本木一丁目
割と値の張るステーキ定食屋。だがうまい。サラダにかかる魔法のオニオンガーリックドレッシング。これは病みつき。少し豪華な独り飯にはもってこいの店。
3.6次郎