う、うめぇよ。
やはり、うめぇよ、おやじ!
次郎は叫んだ。
ありがとよ♪
今日は水曜日。おやじの店では週に一度、出汁の濃いラーメンを出す日。出しを取る具材は毎月変わり、今月は三陸産沖の牡蠣だ。
普段水曜日は仕事がある次郎、今日は久しぶりに休みを取っていた。
水曜が休み、こんなチャンス滅多にない。行かないわけがないだろう。
次郎は独りごちた。
半蔵門線に揺られながら、次郎は、対面に座る将来の展望を欠いた疲弊したサラリーマンたち、通称オワリーメンに一瞥をくれると、手元のスマホでおやじの発信するツィートを見た。
10時開店、バリバリ‼️
とあった。
なんじゃそりゃあ!バリバリって!
パチンコ屋か!ははっ。
次郎は肉が煮込まれる写真を見てテンションが上がった!
そうこうしているうちに神保町に着いた。
おまえらは一生地下鉄に揺られていろっ!
そう吐き捨てて、オワリーメンに別れを告げた。
ガラガラ♪
いらっしゃ〜い。
悪い奴。
はいよ。
小気味いいやりとり。
トッピングは?
青唐辛子、味玉、もやしで。
はいよ。
麺を茹で始めるおやじ。
ヨダレを拭う次郎。
チャッ、チャッ、チャッ♪
チャッ、チャッ、チャッ♪
ぐぅ、この音がたまらねぇ。
チャッ、チャッ、チャッ♪
チャッ、チャッ♪
はいよ。おまちど。
ぐぉ、なんてうまそうなんだ。濃い口の醤油、出汁もチャーシューも漬け込み豚バラ肉も、全てが醤油色だ。
さてと、スープから…
む。牡蠣の味がほんのりと漂う。そしてガツッとくる豚骨醤油。たまらん。
毎度のことながらこのちじれたまご麺がたまらん。スープを良く絡めとり、麺とスープが見事に調和する。
そして、極め付けはやはり、
ほろほろだぁ。しっかりと味がついて見事にほろほろ。口に入れると溶ける感覚。麺とスープ、そしてこのチャーシューを一度に口に入れた時の贅沢感がハンパない。
完敗だよ、おやじ。
ズズズッ
ズルズルッ
ズズズッ
ズルズルッ
ズズズズズッ
ズズズー。
げふっ
完食だ。
うまかったよおやじ。
また来てね〜♪
ガラガラ♪
店を出た次郎。
時刻は12時05分。一仕事終えたサラリーメンたちが神保町の街を埋め尽くす。
一杯千円の悪い奴が昼飯に食えるビジネスメン、500円の弁当でやり過ごすオワリーメン。二極化はサラリーメンの昼飯にまで浸透している。
しかし、俺にはかんけーねー。
単にうまい飯を喰らうだけよ。
カーカーッ
次郎の背後を不気味なまでに黒い烏が飛びすさった。
ふんっ、一寸先は闇か。
次郎は独りごち、
そして、神保町の街を後にした。
続く。
覆面智@神保町
毎週水曜日限定の味。悪い奴。出汁の濾過具合が通常よりも荒いので悪い奴らしい。出汁の濃い醤油ラーメン。普段は入らない醤油に漬け込んだ豚バラ肉と相まって憎々しさ倍増。今月は牡蠣出汁。たまらん。
3.9次郎