うどんの王国高松。
そこで王位を継承することなく帰国した次郎は、フラストレーションが溜まっていた。
うどんはうまいが、やはりパンチが足りねぇ。俺にはやはりコテコテのラーメンだよ、オヤジ!
次郎は機上で独りごちた。
さてと、オヤジには今夜は会えねーしな。
羽田空港から飯屋不毛地帯の品川を抜け、母屋にたどり着いた次郎。
着替えの間も夜飯の事ばかり考えていたため、なかなかシャツの袖を手が通らない始末。
ええぃ、シャツなんか着てられるかっ!このクソがッ。
シャツを投げ捨て、そばに置いてあったボーダーのポロシャツに頭を突っ込み自転車の鍵を引っ掴んで外に躍り出た。
ふー、さてと、家は出たものの、どーするか。
やはりうどんを殲滅させるには、ラーメンしかねぇな。
今夜は恵比寿あたりに繰り出すかっ!
次郎は青山を抜け広尾から恵比寿方面に走りだした。
うー、坂ばかりだな。暑いぜ…
と独りごちた矢先に恵比寿に着いた。変な公園を抜けた先に次郎の嗅覚センサーに引っかかる店を発見した。
つなぎ…
ん?オーバーオールのことか馬鹿野郎!?
次郎の声は弾んだ♪
味噌ラーメンか。
なるほど、どみそ系だな。いいじゃねぇか!
よし、今夜はここに出撃だ!
ガラガラ♪
無音だった。
いらっしゃいませ、はないのか??あぁ?
ジロリと厨房を睨み付けるもその視線を受け止める者はいなかった。
まぁ、いい。
次郎は券売機で辛味噌ラーメンを買いカウンターに座した。
しばらくして、ようやく店員が現れ食券を引き取る。
辛さは弱い方から1から3でして、どうされますか?
…1で。
弱気にも一番辛くないものをオーダーした。
次郎はそれを誤魔化すように、うやうやしく目を閉じた。
はい、お待たせしました。
多少時間がかかっていた。
どーやら作るのに手間がかかるらしい。
ほう。濃厚そうだな!ボリュームも満点だ。匂いがいい。そして見た目もいいぞ!!
ぐおー、この濃厚スープがうまそうだ。
ズズッ。
こ、濃い!!うまい!!
そして、この挽肉がまたうまひ!!
これは飯が欲しい…
い、いかん、それはダメだ次郎。
次郎は自分に言い聞かせた。
よ、よし、麺だ麺だ。
ほう、麺も太麺でうまいな。
ズルズルッ。うまっ!
くっ、チャーシューもうまい!!
はい、チャーシュー丼入ります。
ブォーー!
突如沈黙は破られた。
隣の客が炙りチャーシュー丼をオーダー。
店員がすかさずチャーシューに、バーナーをブチかました。
焦る次郎。
ラーメンは相変わらずうまいが、ソワソワしてしまう。
く、ダ、ダメだぞ馬鹿野郎!
……
おい、にーちゃん。こっちもチャーシュー丼だっ!
やっ、やっちまった…
ラーメンにライス。最悪で最愛の組み合わせ。
しかし、行くしかなかった。あの状況で次郎を責める奴はいまい。
きちんとスープは残していた次郎。
最初から無理だったんだよな。思えば券売機にチャーシュー丼の文字を見た時点で負けていた。
はい、チャーシュー丼です♪
くっ、うまそうに鎮座しやがって。
こうなったら、こうしてくれるわっ!
見るも無惨。白飯とチャーシューは味噌ラーメンへダイブ!
た、たまらねぇ。うま過ぎる!
はい、丼の付け合わせでおしんこもどーぞ♪
なんやそら、きたねーぞ時間差攻撃なんて。
くー、これをまたまとめてダイブさせろってのかっ!
…う、うまい。
完敗だった。否、完食だった。
後悔の念とともに清々しい気分に包まれた次郎。高松のうどんの味などとうに忘却の彼方にあった。
ガラガラ♪
うっ、相変わらず暑いな。
しかし、今日は掘り出しもんをみつけたぜ。恵比寿はアフリなんかじゃなかったな。
また来るぜ!
次郎が出た後には、カロリーを欲しがる若者たちが店内にどやどやと消えていった。
ふん、俺もまだまだだな。
恵比寿の夏夜はふけていった。
続く。
つなぎ@恵比寿
どみそ系の味噌ラーメン。辛味噌ラーメンはマスト。濃厚でうまい。ボリュームもある。しかし、ライス必至。二倍うまい。再訪必死。
3.7次郎