食い倒れ 函館次郎のひとり飯道

函館次郎が世間の荒波に抗いながらひとり飯に命を捧げる物語

萬里とキムラ亭 野毛

ピチャ、ピチャ

ピチャ、ピチャ

 

靴が地面に触れるたびに水溜りが音を立てる。次郎は、前のオヤジに気づかれないように、冷たい雨が降り注ぐ野毛の街を歩いていた。オヤジが振り向く一瞬前に横道に入り、姿を消した。オヤジは首を傾げながら再び歩き出した。オヤジは道を俺ささ川に向かって行く。そこで再び振り向いた。次郎は電柱に身を隠し携帯をいじるふりをした。オヤジはまた首を傾げながら歩きだす。

そうこうしているうちにオヤジはささ川に差し掛かかった。それを見て次郎は速度をあげた。そして、オヤジがささ川に架かる橋をちょうど渡りきるころ、後ろを行く次郎はちょうど川の手前にある探し求めていた洋食屋にたどり着いた。

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ふぅ、ここか。偽装尾行も悪くないな。特に意味はないけどな。

次郎は独りごちた。

 

次郎久しぶりに横浜の街に来ていた。野毛は桜木町の駅にある飲み屋街であり風俗街でもあり、近くにはドヤ街もある雑多な街だった。

 

通常桜木町を降りるとこの野毛側には観光客は訪れることなくコスモワールドの観覧車をアイコンとする海側に向かう。駅の裏にこんなディープな街があることは知りようもない。

 

次郎は、昔のアルバイトの関係で横浜に行くときは決まって野毛側に出没していた。

 

しかし、この野毛は昔から小さな飲み屋などが乱立し、雑然としているため、酒をハシゴするにはもってこいの 街だった。次郎は住みかが遠いためあまりこの辺で飲むことはなかったが、久しぶりに横浜を訪れたため、この街で夜飯にありつこう、そういう魂胆だった。

 

折しも、野毛は桜祭り。混雑していた。

 

まず一軒目に次郎が目指したのは、そんな飲み屋とは打って変わって洋食屋だった。キムラ亭と呼ばれるそこは、ハンバーグで有名な店だった。

 

カランコロン♪

 

いらっしゃいませ。人の良さそうな年配の女性給仕係が出て来た。

 

一人だ。

ぶっきらぼうに答えると、次郎は奥のテーブル席に案内された。

 

メニューをみるやいなや、

 

ハンバーグセット。ユリオカで。

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言い切った。

 

は、はい。

給仕係は意味もわからず応えていた。

 

ふん、ユリオカもわからず給仕係が務まるのか。

次郎は疑問を感じながら目を閉じた。

 

はい、お待たせしました。

まずは小さなサラダが出た。次郎へ無言で食べた。

食べ終わるころ、件のハンバーグがでてきた。

 

はい、ハンバーグでございます。

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ユリオカでね。

給仕係は意味も解さずしゃべっていた。

 

キ、キサマ、ユリオカをわかっていないな!

なのに、語るとは…呆れてものも言えん。

これでハンバーグがまずかったらわかってるだろうな。

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次郎の羅王の構えに気づかず給仕係は去っていった。しかし、次郎の危惧をよそにハンバーグはうまかった。肉厚で生卵を掛けたパテはデミグラスソースと相まって濃厚な味を醸し出していた。どこか外国風のヨコハマな感じのする味だった。

 

ちっ、許してやろう。しかし、今夜は次もあるんでな。おい、会計だ!

 

次郎は白飯を残し、金を叩きつけ、次の店に向かった。机の上は叩きつけた小銭で凹んでた。

 

カランコロン♪

 

次郎が店を出るとあたりはスッカリ暗くなり、人通りは増えていた。皆一様に笑顔だった。

 

ちっ、桜だか祭りだか知らねぇが、皆浮かれやがって。北斗神拳をお見舞いしてやるとこ…どんっ、

 

うぉうっ

 

誰だっ!

 

しかし、人混みが多くて誰がぶつかったのかわからない。

くそっ。

やるせない思いを抱えたまま小道に入った。まずみつけた焼き鳥末広。

 

くっ、劇混みじゃねーか!

長蛇の列。次郎はすぐに諦めた。

次に出会ったのは魚バルなんとか。

 

くっ、ここも並んでやがる。しかもカップルばかりか。こんな雑な街なのにカップルがウロチョロしてるとは、世も末だ。

 

さらに歩を進めると、塩もつ煮込みで有名なもつしげがあった。おお、ここは行けそうだ。

ガラガラ♪

 

あ、お客さん、受付は反対側にある二号店なんです。

ちっ、書いとけバカヤロウ!

反対側を見ると

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くそ、ここも並んでやがるのか。

ふー。三軒もダメか。流石土曜だ。

ふと、目を先に向けると、萬里。有名な餃子屋があった。

よし、ここに突っ込んでみるか。

 

ガラ♪

 

イラッシャイマセー。

中華系と思われる女性店員が出迎えた。

カウンターどーぞー。

 

機先を制された。

お、おう。

 

次郎はカウンターに座った。

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メニューが垂れ下がっている。しかし、読みづらいのでテーブルにあるメニューを広げた。

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お、小皿メニューもあるな。

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よし、これでいこう。

 

おい、ねーちゃん注文だ!

 

ハイ!

 

焼き餃子、水餃子、それに麻婆豆腐と海老の炒め物だぁ!

頼むぞ!

 

ハイ!

 

中華系はユリオカで頼まずとも速い。

 

次郎は目を閉じ…

 

ハイおまち!

 

目を閉じるまえに焼き餃子がでてきた。ここでも機先を制される次郎。

お、おう。

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はい、水餃子おまち!

間髪入れずに水餃子もお目見えした。

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どちらも、うまそうだな。まずは焼きからだ。

おもむろに餃子を、頬張った。ほぅうまいな。しかし、これぐらいなら福島県の方がうまいかもな。次は水餃子だ。

次郎はあつあつの水餃子を頬張った。

 

おぉ!これはうまい。ここは水餃子の勝ちだ。アンが濃厚だ。皮は割と厚めだがアンを邪魔しない。これはいけ…

 

はい、麻婆豆腐と海老炒めね!

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 またしても制された。

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下町に、ありそうなものが出てきたな。

麻婆豆腐はと。熱っ!おぉ、しかしいいぞ。あまり辛くもない。すでに餃子で腹一杯であまり進まないが、はじめに食べたら白飯が欲しくなるな。この海老炒めは、、、普通だな。まぁいい。

 

げぶっ

しかし腹一杯だ。 もう食えん。

 

おい、ねーちゃん会計だ!

2020円です。

 

速いな!今日は機先を制されてばかりだ。

釣りはとっときな!

きっちり2020円を置く次郎に一瞥しながらもすぐに他の客に対応する店員。

 

やるな、脱帽だ。

野毛は、楽しいな!

また来よう。次は三郎でも誘うかなぁ。

次郎は独りごちた。

 

夜も大分暖かくなった野毛の街。

次郎の頭上をどこからか、桜の花びらが一ひら舞った。

 

 

続く。

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キムラ亭と萬里@野毛

野毛の街は楽しい。洋食。中華。魚バル。うなぎ、もつ煮込み、焼き鳥。小さな店がひしめいていてハズレはあまりなさそうだ。何店舗もハシゴするのが楽しい。

キムラ亭3.3

萬里3.3