函館次郎の独りごち飯。

東京近郊のうまくて並んでない店を探す男のドラマ

東京らっきょブラザーズ

ちっ、ついてねーな。

次郎は夕方の暗い空を見上げていた。

 

先程まで次郎は友人の三郎と最近流行りのアニメ映画を見に行っていた。

内容はありきたりだったが、次郎の満足いく内容だった。その後二人で渋谷駅近くの丸金ラーメンに行こうとしたその時、次郎は普段はあまりかけない眼鏡を映画館のトイレに忘れてきたことを思い出した。

 

三郎には悪かったが、眼鏡を取りにいくから先に帰っていてくれと別れたのだった。

 

トイレに戻った次郎は眼鏡を見つけたものの、見るも無残、

眼鏡の右の柄が折れていた。

 

く、くそやろうどもが、映画ごときにうつつをぬかしおって、俺の大切な眼鏡を、、、

 

うぉー!!!!!

 

でてこいー犯人、返せー!俺の眼鏡を、なんでも見える眼鏡をーーー!!!!!

 

周囲が次郎を変質者のような目で見ていた。

 

と、と取り乱しちまったようだ。

 

次郎は壊れた眼鏡を鞄にしまい、映画館を後にした。外に出ると、いつの間にか雨が降り出していた。

 

ち、ついてねーな。

 

次郎は、夕方の暗い空を見上げた。

目に雨粒が入る。ボヤけた目に、ココイチのカレーが飛び込んできた。

 

ココイチか、、、ここいち、、、ここ一番カレー、ここはカレー、、、カレー、、、

 

そ、そうか、スープカレーか。

そういうことか!

 

次郎は、何かに憑かれたように山手線に向かって走り出した。

 

『ドンッ』

うぉっと、わりーな小僧、俺は忙しいんだ、悪く思うなよ!

次郎は男子小学生を押しのけて走った。

全てを見透かすような目で少年が見ていたような気がしたが、次郎は構わず駅へと走り続けた。

 

渋谷から高田馬場に、さらには地下鉄に乗り換えて早稲田駅に来ていた。次郎は早稲田駅に着く頃には、眼鏡で受けた心の傷も癒え、スープカレーを目前にして晴れやかな気持ちになっていた。

 

なるほどな。

俺はこれを食うために眼鏡の右柄を折ったってことだな。神もやってくれるぜっ。

次郎は独りごちた。

 

次郎は早稲田駅から徒歩1分のところにある、東京らっきょブラザーズに入った。

 

カランコロン♪

 

おい、おやじ、チキンスープカレーだ、辛さは4番、納豆トッピングだ。

ぬかるなよ!

 

ドアを開けると同時に店のおやじに叫んでいた。待つこと10分、目当てのスープカレーが出てきた。ふん、待たせやがって。これでまずかったら、わかってるだろーな…

 

 

おぉ、秋だから、さつまいもか!

他にもたくさん野菜が入ってるな!

ブロッコリーの素揚げが効いてるぜ。チキンもホロホロだな。

くー、しみるぜおやじ!でかしたぞ!

 

次郎のテンションは上がっていた。

 

今日は結局いい日だったってことだな。

映画『視力は失っても、今夜はスープカレーだバカやろう』

を見ると決めた時から、こうだったんだ。

 

ラーメンじゃなかったってことだな。

悪いな三郎。

 

ふー、腹も出ちまったが、今日は良しとするか。じゃあな、おやじ。

釣りはいらねーぜ。次郎はさっそうと店を出た。

 

カランコロン♪

 

すれ違いざまに、見たことのあるような少年が入っていったようだったが、次郎は気にせず足取りも軽やかに店を後にした。

 

鞄の中にある眼鏡の左の柄が渋谷で少年とぶつかった時に折れたことを、次郎はこの時知る由もなかった。

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続く。

 

東京らっきょブラザーズ@早稲田

スープカレー。具のボリュームがあり、食べ応え半端ない。

3.8次郎。